「呪怨」「犬鳴村」の清水崇監督最新作『忌怪島』。島に伝わる土着の呪いとVR・最先端科学の入り混じる世界

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/29

忌怪島〈小説版〉(竹書房文庫)
忌怪島〈小説版〉(竹書房文庫)』(久田樹生:著、いながききよたか・清水崇:脚本/竹書房)

 西畑大吾(なにわ男子)の主演で話題のホラー映画『忌怪島』(6月16日より全国公開予定)。監督は「呪怨」や、「犬鳴村」から続く“村”シリーズで世の中を震え上がらせた清水崇監督とあって、公開を心待ちにされている方も多いだろう。このほど映画公開に先駆けてノベライズ小説の『忌怪島〈小説版〉(竹書房文庫)』(久田樹生:著、いながききよたか・清水崇:脚本/竹書房)が登場した。著者は清水監督の“村”シリーズでも小説版を手がけた実話怪談の実力派である久田樹生氏。最先端デジタル空間×未だシャーマンが棲む閉鎖的な「島」を舞台にした恐怖の連続――映画より先に読んでしまおうか、実に悩ましい状況だ。

 最先端VRソフト〈シンセカイ・シミュレーション・ルーム:SSSR〉を開発中のデナゲート社は、機密が外部にもれないように、ユタとよばれるシャーマンが未だ棲むとある離島にラボを設けた。SSSRは脳のニューロンネットワークを利用して人間の思考と精神をVR空間に転送し、シミュレーション内のアバターを「自分自身そのもの」と感じさせるというもの。ただしSSSR完成にはまだまだデータが足りず、この島で秘密裏にデータ集積を行なっていたのだ。ある日、データ集積の被験者である島の男性と研究者の女性が、同日、同時刻に、全く別の場所の室内で死ぬという事件が起きる。しかも室内にいたはずの二人の肺は海水で満たされていた。つまり“溺れて”死んでいたのだ……。

 物語は天才と謳われる片岡友彦(映画ではなにわ男子の西畑大吾が演じる)が、そのラボに赴任してくることで急展開していく。システムエラーで突如赤いバグが出現…どこか「女」の姿にも見えるそれは何を暗示するのか。島に伝わる土着の「呪い」とVRと最先端の「科学」という位相のまったく異なるものがクロスし、異世界と現実世界が接続してしまう恐怖。そこに唐突にインサートされる衝撃的な「赤」に戦慄し、自分の今いる世界はどこなのか、ここから逃げられるのか――自分の足元まであやうくなるような感覚にぞわぞわする。

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「“村”シリーズの映画で描いてきた知られざる因習や隠蔽による人の闇…それはまさに【認識】と【繋がり】の歪み。“島”へと移行するにあたって、新たな要素を組み合わせることにした。インターネットやSNSを越えて……さらに少し先にある仮想空間と脳科学の技術による新しい【認識】と【繋がり】の世界だ。そこに日本人ならではのDNAと封鎖的島国精神を加味したら……?」と、清水崇監督は本作に言葉を寄せる。日本人の因習的なドロドロがデジタル世界で炸裂するのは、息が詰まりそうに濃厚で後味の悪い世界。これが現実だったらかなりイヤだが、そこはフィクションのありがたさ。どっぷり楽しんでいただきたい。

 ユタがいるということは物語の舞台は沖縄や奄美の離島のイメージだろうか。小説版では島の民俗学的側面や最先端のVR空間の専門用語、さらには人物描写など映画では描ききれなかった細部まで描かれており、映画を切り離して単体の「ホラー小説」として楽しんでもいいだろう。もちろん映画の後に読んで背景をより深く理解するもよし、先に読んで「これがどう映像になるのか?」を楽しむのもよし、何重にも襲ってくる恐怖に戦慄するのは間違いない。

文=荒井理恵