休んだら逆に疲れてしまう人への具体策も。今、必要なのは「休む力」。がんばりすぎで苦しい人が知りたい、ほどよく休んで幸せに働く方法
公開日:2023/6/22
責任感が強く真面目な人ほど、多くの仕事を抱え込んだり、仕事に穴をあけてはいけないと無理をしたりしてしまいがちだ。しかしその結果、心が疲れ、一生懸命働いているのに仕事が回らず、眠れない、動けないなどの体の不調もきたしてしまう――そんなつらさを「休む」という切り口から解消してくれるのが、本書『全部うまくいかないのはわたしが頑張りすぎるから 休めない人の心をゆるめる相談室』(下園壮太/WAVE出版)だ。
著者は、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長の下園壮太氏。元・陸上自衛隊衛生学校心理教官で、自衛隊員のメンタルヘルス教育や大事故、自殺問題の支援も手がけてきた心理カウンセラーだ。うつ状態からの復帰を専門とし、コロナ禍ではテレビ、ラジオなどメディアでの発信も活発に行っていた。
本書は、うつなどの心の不調から抜け出す方法として有効な「休む」ことについて、その重要さや、具体的な休み方を伝えている。まずは、疲労が心の不調を招くメカニズムや、現代人が疲れやすい理由などを解説。そして、無理につながる「頑張りたい」へのしがみつきがなぜ生まれるのか、さらに、「ほどよくあきらめる」「第三者に頼る」など、しがみつきを手放す方法を伝授する。日本人が抱きがちな、しんどくても頑張るのが正しいという思い込みを、心という視点から論理的にほぐしてくれる。
同時に著者は、心の不調の解決策はひとつではなく、人それぞれに合った方法があると語る。それを具体的に伝えるのが、仕事にまつわる各種の心の悩みにカウンセリング形式で答える第3章だ。「感情があふれて整理できない」「自分がどうしたいかわからない」「上司のせいで仕事が嫌になる」など、職場の状況やその人の性格も異なるさまざまなケース別の悩みに対して、有効な対処法を伝える。心の不調や仕事上の悩みを抱える読者が、自分に近いケースを参考に、具体策をイメージできるため実用的だ。
著者が伝えるアドバイスのうち特に印象的なのは、0か100に振り切れた方法ではなく、「ほどよい」答えを見つけるべきということ。たとえば、数日間しっかり休むと、さらに動けなくなったり再始動がつらくなったりする人もいるため、「1日の午前中だけ」「毎日夕方5時以降休む」などの適度な休息が良いケースもあること。仕事がつらいからといって、仕事を辞める/辞めないという0:10の選択ではなく、他部署異動を希望する、今すぐ転職をするわけではないが転職サイトに登録してみるなどの、5や7の段階の行動を検討すべき、など。なお、メンタルが不調の時は極端な選択肢しか浮かばず冷静な判断ができないことも多いため、転職などの大きな決断は避けたほうがいいという。仕事を何度変えてもうまくいかないという人にとっては、心に響くアドバイスだろう。
「自分はまだできる」「休んだら居場所がなくなる」「迷惑をかけられない」など、何かと理由をつけて頑張ることを正当化するのは、心当たりがある人も多いのではないだろうか。そんな姿勢は一見模範的だと思われがちだが、無理をした結果、体が動かなくなっては本末転倒だ。自分に合った上手な「休み方」を知ることこそ、長く、幸せに働くために社会人として欠かせないスキルだと本書は教えてくれる。コロナ禍で私たちは、働き方も職場環境も予想しない方向に変わってしまうことを経験した。今は心が大丈夫な人も、いつ何が起こるかわからない時代だからこそ、本書で「休み方」を学んでみてはいかがだろうか。
文=川辺美希