神木隆之介「嫌われることに対して嫌だなとか思わない」―映画『大名倒産』から、人に愛される理由と演技論をひもとくインタビュー

エンタメ

公開日:2023/6/22

神木隆之介さん

 映画『大名倒産』(原作:浅田次郎『大名倒産』[文春文庫刊])が6月23日(金)より公開される。主人公・小四郎を演じるのは、本作が時代劇初主演となる神木隆之介さん。公開に先立って、神木さんに本作の魅力はもちろん、ご自身のリーダー性や普段の演技、さらには時代劇について、話を伺った。

(取材・文=篠田莉瑚)

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■原作のある作品は、自分の中の第一印象を大切にしている

大名倒産
大名倒産』(浅田次郎/文春文庫)

―― 今回の原作は浅田次郎さんでしたが、原作は読まれていましたか? 原作と脚本で感じたことは?

神木:出演が決まってから読みました。(脚本は、)時代設定がすごく現代に近くなったなと思いましたし、出てくる登場人物も尺の長さも違うので、原作をそこまで気にしなくて良いなと思いました。

―― 以前のインタビューで、「本が好きだからこそ原作ファンのこだわりもすごくわかる」「大好きだからここだけは譲れないんだよな、って思ったりする」とお話しされていましたが、今回はあまり気にされていないんでしょうか?

神木:そうですね。映画は原作とは大きく違っていたので、別のもの、別の作品だと思って演じさせていただきました。脚本を読ませていただいて、すごく話もシンプルですし、「借金を返す」「そのためにはどうしたらいいか」っていう1つの大きなテーマがありました。

――“小四郎”を演じる上で何か意識したことも特にはない?

神木:小四郎はそこまで人間関係に巻き込まれるわけでもなく、ただただ「どうやって借金を返済したらいいんだろう?」と常に困った感じのキャラクターでした。コメディですごく複雑なわけでもなかったし、そこまで今回は役作りやバックボーンみたいなものは気にせずできました。

―― ではそんなには苦労をされていない?

神木:そうですね。ただ1つ、苦労というほどではないんですけど、監督が求めているリアクションと、自分で台本を読んだり、小四郎を演じてきて思ったことだったりがところどころ違っていました。そこは監督と話して、「ここの小四郎はたぶん、急に藩主になってしまってすごく大きいプレッシャーも感じていると思うので、リアクションを取らずに、苦しみとかの心の動きを見せる表現にしたほうがいいと思うんですよね」みたいな話をしながらやっていました。

―― 具体的に覚えているシーンで、監督とちょっと合わせたシーンを1つ挙げると?

神木:映画の中で「借金があります!」と言われたときに、カメラワークで自分の顔から上に上がって、「25万両!?」と言って床に手を突くシーンがあるんですよ。その後に「25万両とは現在でいうと100億になりますよ」という説明の映像が入るところで、実際に監督がやって見せてくれたんです。だけど、僕の中ではかなりオーバーにみえて、監督に伝えたのは「リアルとコメディのリアクションのすごい曖昧なところをいきたい」ということ。

 あんまり動きすぎたり大げさすぎたりすると、25万両を背負わされた人の重さが逆に軽くなってしまう気がして。リアクションをしている、と見られたくなかったので、「1回やってみるので、どういう風になるか見ていてください」と伝えてやってみたのが、本編のリアクションになりました。

―― 割と普段から作品全体を俯瞰して見て計算しているのでしょうか?

神木:そこまで綿密には計算してないんですけど、前後は気にしています。あとは直感が働くというか、何となく自分がやっているのを想像したときに「もうちょっと大げさにリアクションとってもいいと思うんだよな」「ここはもっと抑えてもいいと思うんだよな」と感じるものは監督やスタッフさんにお話しさせてもらっています。

―― ちなみに本作に関わらず、原作がある作品に出演されるときに絶対に守るマイルールはありますか?

神木:原作で読んだ自分の役の第一印象をすごく大事にすること。もちろん原作と全然違ったり設定が変わっていたり、というところは臨機応変に変えたりはします。でも役作りに関しては自分の役の第一印象を中心に作っていくので、原作に似ている脚本が作られたら、どちらかというと僕の中の原作の第一印象を大事にすることは心がけています。アニメとかの場合は、アニメを観て特徴や動き・動作はとても細かく見てやりたいという思いが強くあります。

―― 今リアクションの話もされていましたが、今回小四郎は表情がすごくころころ変わる印象がありました。神木さんも実際に普段からあんなにころころ変わるのでしょうか?

神木:変わります、変わると思います。さすがに小四郎ほどは変わんないですけど、人よりは変わるほうだと思います。顔に出るってよく言われますね。隠しているつもりなんですけど(笑)。

―― 最近、一番表情筋を使った出来事はなんでしたか?

神木:最近NHKの連続テレビ小説『らんまん』の東大生チームの前原滉くんと前原瑞樹くんと3人でカラオケに行って、めちゃくちゃ楽しかったです(笑)。彼らのおかげで現場でもそうですし、いつも笑わせてもらっているので、ここ最近は笑うほうの表情筋が痛いです。

■江戸時代も現代も、中間管理職は大変

神木隆之介さん

―― それこそ最近は『らんまん』や『ホリック xxxHOLiC』(2022)など近現代の作品に出演されていますが、『大名倒産』は江戸時代でした。時代観の切り替えはどうされているんでしょうか?

神木:時代がこうだから、というのはあまり意識していないですね。所作とかはもちろんありますけど、今回の『大名倒産』では台本にも「マジで?」というセリフもあったので、「そこまで時代を気にせずやろうとしているんだな」というのは見えていたし、気兼ねなくできたと思います。

 同じ人間だから思うことは現代の人とか前の時代の人とかあんまり関係ないのかな、と思っているので、そこは一貫しているつもりです。

―― 映画は原作よりも、かなり今っぽくポップに描かれています。そういう作品を届けられることの楽しみや神木さんが感じたことはありますか?

神木:僕は個人的に、時代劇の映画だと構えてしまうことがすごくあるんですよね。物も言葉もわからないですし、その時代って刀があるから人をすぐ切ってしまう、命に関わる作品も多いじゃないですか。覚悟を持って観ないと落ち込んじゃうこともあると思うんですよ。

 だけど『大名倒産』はすごく楽しいポップな時代劇で、なおかつ今っぽいというギャップに新鮮味があるのかなと。借金だったり節約だったりって、現代でも別に変わらない。あとは小手(伸也)さんが演じてらっしゃる橋爪佐平次は、梶原(善)さんが演じる大膳と藩主である小四郎の間に挟まれている、中間管理職の人間。会社の中で一番難しい立ち位置ですよね。上司と同僚、部下、ほかのチームに挟まれてどうしたらいいのかわからないっていう。もちろん大変な役職だと思うんですけど、僕の友達から聞く会社の苦労話と映画の中で描かれていることが変わらないのかなと思ったりします。各キャラクターが背負っているもの、置かれている状況っていうのは現代の、なかなか生きづらい世の中と共通点がすごく多いので、時代劇だと思わずに観てほしい作品です。

―― 今回が時代劇初主演でしたが、時代劇は少し構えてしまうとおっしゃっていました。コメディ調ではありましたが、それでも時代劇初主演ということで、いかがでしたか?

神木:やっぱり所作は難しかったですね。リアクションだったりセリフ回しだったりというのは現代だったんですけど、やっぱり所作だけは当時のものだったので。しかも“殿っぽくない殿”をテーマとしてやっていたので、頭の下げ方とか角度は小四郎っぽく。自分も藩主なくせに、同等な人でも目上と本能的に感じちゃうからすごく頭を下げる、とか、何か抜けていないというのを表現したくて、それは所作の先生にお伝えしてやらせてもらっていました。でも座り方とか手の突き方、歩き方、袴のさばき方、その辺はすごく時代劇だと実感したので、そこは難しかったです。

―― 時代劇を体験して、例えば大河ドラマに出てみたい、ほかの時代劇もやってみたいという意識がわいてきたりはしましたか?

神木:しませんでした(笑)。所作に順序があったりするのが難しいなと思ってしまいました。僕は所作が苦手でしたね。ありがたいことに、今は(『らんまん』で)酒屋の当主なので、活かせてよかったです。

■「好かれている」「嫌われている」に興味がない

神木隆之介さん

―― では小四郎と神木さんの共通点は?

神木:平和主義者っていうのはある程度似ていると思います。でも小四郎のほうがもっと平和主義者です。演じていても、小四郎の優しさや器の大きさ、人に寄り添えるような人間性をすごく尊敬しながらやっていました。似ているというか、まだまだ似ていない、足りない部分が多いなという感じですね。

―― 以前のインタビューでは、神木さんがご自身の性格を「基本的におめでたい人」とおっしゃっていて、実際に映画を観ておめでたさを感じました。本作で活きた部分はあったのでしょうか?

神木:おめでたいです(笑)。そう感じていただけたならよかったです。確かに小四郎は優しいだけじゃなくて、「こいつ何かすぐ騙されそうだな」みたいなのが若干あっていいなと思っていて。見ていてクスっと笑えるのが、しかもその笑えるっていうのが笑わそうとしてというより、「なんかバカだなこいつ」とか「本当にお人好しだな、大丈夫か」というような笑われ方がいいなと感じていたので、おめでたいやつって印象を持ってくださったのはすごくうれしいことです。

―― 一方で小四郎はリーダーとしての一面もありました。神木さんは現場で座長として振る舞うことが多いと思いますが、リーダーっぽさのようなものはご自身で感じることはありますか?

神木:生徒会長に憧れていた学級委員長だったので、リーダーになりたいとは思いつつ、でも本当に向いているのは副学級委員長みたいなサポート役だと思うんですよ。ただ自分が学生の時は生徒会長になりたかった。学校を休みがちになってしまうので、学校にいられないならだめと言われて学級委員長になったんですけど…。

 その時は別に嫌われてもいいなと思っていたので、(生徒会長に)なりたかったです。やっぱりリーダーって支持される一方、めちゃくちゃ嫌われる存在でもあると思います。反対意見を押し切ってやらないといけないこともあるし、信念があって貫かなきゃいけないこともあるし、効率的に利益のために動かないといけない。ヘイトを買うときもあるけど、それでも別に構わないからこのクラスをまとめよう、と思って学級委員長になったんです。本当はサポートのほうが向いているんだろうなと思いつつ、嫌われても、何言われても別にいいから、とりあえずこの場をまとめないと、どうにもできないのがじれったい、というのがあったので、半々ですね。

―― 嫌われてもいいや、というのは昔から?

神木:そうですね。好かれているかとか嫌われているかということに、そこまで興味ないっちゃないですよね。もちろん人には興味ありますし、その人の心理状態とかにもすごく興味ありますし、人のことは好きですけど、嫌われることに対しては嫌だなとかないです。そこにあまり興味がないですね。

―― 今の時代はSNSもあるので気にされる方もすごく多いと思うんですけど、そういう方に何かアドバイスなどがあれば…。

神木:僕も悪口は嫌ですよ。別に嫌われてもいいと思うんですよ、どうでもいいと思うんです。ただ、今のSNSってそれをめちゃくちゃ暴言で言うじゃないですか。それは違う、それは誰しも気にするよな、と思います。

 例えば「内心、こいつちょっと苦手だな」とか思う分なら別にいいと思うんですよ。コミュニケーションしていく中で、好きじゃないんだろうな、そんなに仲良くならないんだろうな、とか感じるのは人間としていいと思うんですけど、明らかな攻撃表示をされるとさすがに僕も気になりますね(笑)。

―― 前田哲監督のインタビューで、「『大名倒産』はリーダー論をやりたかった」「人はどうしたら幸せになれるかを描きたかった」と語っていました。そういう監督の意見を聞いてどうですか?

神木:撮影に入る前に、小四郎のことについてちょっとだけ話した記憶がありますね。その時には僕が結構喋っていたんですけど、「とにかく人に寄り添うことができるリーダーであったらいいなと思います」とはお伝えしていて。

 小四郎は元々リーダーではなかった人間なので、藩主になるまで「リーダーは怖い」とか、「恐怖で支配するリーダーがいる」とかのイメージも持っていたと思います。でもたぶん監督のリーダー論とか僕が演じて表現したかったものって、先陣切ってみんなをこっちだ、あっちだ、どうだという力はないけど、とにかく自分が必死になって頑張って、家臣とか部下にも向き合おうとしている誠意が伝わって、そういう姿を見て他の人が心を動かされて。「やっぱりこの人のために頑張りたい!」と思える素敵なリーダーの姿でもあるのかな、と思いましたね。

スタイリング:日本語表記:カワサキ タカフミ/英語表記:TAKAFUMI KAWASAKI
ヘアメイク:MIZUHO(VITAMINS)
カメラマン:YOSHIHITO KOBA(Sketch)