感情に振り回されず心を整えてくれる「呼吸」「姿勢」がある! 禅の美しい振る舞いを知り穏やかに生きる方法
公開日:2023/6/28
働き盛りの世代や子育て世代は、勉強でも仕事でも、数字や時間に追われてきた年代だろう。一生懸命がんばっているのに充実感が得られなかったり、人と比べて劣等感にさいなまれたりと、モヤモヤした気持ちを抱えている人も多いはずだ。そんな苦しさやストレスを、禅の教えに基づく「行動」によって解消する助言をまとめたのが、本書『悩みを手放す21の方法』(枡野俊明/主婦の友社)だ。
著者は、曹洞宗徳雄山建功寺の住職で、庭園デザイナーや大学教授としても活躍する枡野俊明氏。『心配事の9割は起こらない―――減らす、手放す、忘れる「禅の教え」』や、『仕事も人間関係もうまくいく放っておく力』など、禅の考え方をベースに生き方を解く書籍でも支持を集めている。
本書では、呼吸や姿勢などの「体と形」、食べることや食事作りなどの「食」、生活に関わる「暮らし」、そして人への態度や言葉などの「人間関係」という4つのカテゴリーごとに、身に付けることで心が整う21の方法=行動を伝える。坐禅の組み方など本格的なものから暮らし方まで幅広いが、そのほとんどが、手の所作や座り方といった日常生活の中で取り入れられる動きだ。そしてそれぞれの所作が、どう心の変化に結びつくのかが丁寧に説明されていてわかりやすい。
本書の最大の魅力は、心に直接アプローチするのではなく、行動、つまり形から入ることを勧めている点だ。著者の助言のベースにあるのは、身業、口業、意業の「三業」を整えるという禅の考え方。この3つはつながっており、体→言葉→心の順で整うとされているという。
乱れる心をいきなり整えようとしても、読者はどうすればいいかわからないだろうと著者は配慮する。しかし、振る舞いなら体の動きだけで変えられる。そして行動を整えることで、物や人への態度がおのずと丁寧になり、心も良い方向へと変わっていくという。
たとえば、「息を吐く」は、心を整えるための第一歩だ。心と体が怒りや緊張にとらわれてしまうときは、息を吐いてゆっくりと吸い込めば、心の乱れが落ち着いていく。呼吸が整うことで全身の血流が25%アップするというデータもあり、脳や思考にも良い影響を与えるという。
禅の作法のひとつである「手の形」も、生活の中で取り入れたい仕草だ。たとえば「叉手(しゃしゅ)」は、胸の前で左手を握り、右手をかぶせる所作。だらしなく手を垂らすのではなく、叉手の形をとることで、姿勢や呼吸が整う。座っているときの手の形である「法界定印(ほっかいじょういん)」も詳しく紹介されている。右手の4本の指の上に左手の指をのせ、両手の親指の先をつける形だ。背筋が伸びて呼吸が深くなり、心が穏やかになる。仕事中や人との会話中など、気持ちを落ち着かせたいシーンで取り入れられそうだ。
21の方法によって、心が整うだけでなく、立ち姿や振る舞いも整う。本書が伝える食事中の器の扱い方、お茶の淹れ方なども、大人として知っておきたい所作だ。忙しくてつい行動が雑になってしまう人や、落ち着いた美しい所作を身に付けたい人は、本書から学ぶことが多いだろう。
思考を変える方法を伝える書籍は数多くある。しかし、そこで伝えられる「考え方のクセをつける」「◯◯と意識する」といった心に働きかける習慣は、意識を向ける先が漠然としているため、難しさを感じる人もいるのではないだろうか。その点、この21の方法は、何も考えなくても動きを変えれば良いため気が楽だ。時間や手間がかからない方法も多いのも嬉しい。著者の丁寧で美しい言葉を辿るだけでも心が穏やかになるので、忙しい人こそ、本書をじっくり味わってほしい。
文=川辺美希