「性的同意」を0歳児から。「これやってもいい?」の問いかけが大事だと教えてくれる、フランス発の絵本『にゃっ!』

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/24

にゃっ!
にゃっ!』(クレール・ガラロン:著、一十三十一:翻訳、北原みのり:解説/アジュマブックス)

 6歳の息子の保育園で“女子トイレ覗き”が流行っているようです。性に目覚める時期だろうし、友だちと誘い合って止まらなくなっている状況はわかります。でもさすがに放っておけず、“相手は嫌がっているんじゃない?”と声をかけると、“パンツを見せてくれる子もいるよ”と返されて驚きました。

 でも、もしかしたら相手は、本当は嫌なのに怖くて否定できず、無理やり男の子たちに応じたのかもしれません。それを正しく判断するのは大人でも難しいことですが、もしそうだった場合、どうしたら相手に尊敬と「同意」を示し、相手の気持ちを尊重することができるでしょうか。「同意」についてきちんと息子と話す機会を持つべきだと感じました。

どんな相手も意思を尊重するべき存在

にゃっ!

にゃっ!』(クレール・ガラロン:著、一十三十一:翻訳、北原みのり:解説/アジュマブックス)は、フランスでジェンダーによるステレオタイプを批判し、性差別や性暴力の根絶を目指す児童出版社タロン・オー社による、0歳から3歳児向けの「同意」の絵本です。

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 小さな子どもが猫に「ナデナデしたい」「チュチュチュチュしたい」とちょっかいを出そうとしています。でも、猫はおもちゃではありません。子どもに追い回されながら、怖がったような表情になって隠れたり、爪を見せて威嚇したりとさまざまな反応を見せる猫。その反応を見た子どもは…。本書を最後まで読むと、相手に問いかけをする時のヒントを得ることができます。

「『これやってもいい?』と問いかけ、相手が意思を持つ独立した個であることを優しく明るく教えてくれる本」という解説からは、人間であれ動物であれ、どんな相手も意思を尊重するべき存在だということが伝わってきます。

にゃっ!

 自分より小さな猫にちょっかいを出す…というシチュエーションは、子どもにも想像しやすいのではないでしょうか。また、鮮やかな色彩が、猫の表情や行動の変化を赤ちゃんや小さな子どもにもしっかりと伝えてくれます。シンガーソングライターの一十三十一さんが翻訳した「ニャンニャンニャンこち」「ギューしたいーの」などの文章は、発音した時の語呂が良く、何度も語りかけたくなります。まだ言葉を発する前の子どもでも、敏感な視覚と聴覚、スポンジのような吸収力で「同意」の感覚を読み取っていく様子が想像できました。

「同意」は小さいうちから学ぶべき大切なこと

 近年、多くの国では「性的同意年齢」に注目が集まっています。「性的同意年齢」とは、性行為をしたいのか、したくないのかを自分で判断できるとみなす年齢のことで、韓国やフランスでは年齢が引き上げられたばかり。日本でも13歳から16歳への引き上げが決定しました。

 同時に、本書によると、「同意」は小さいうちから学ぶべき大切なことだと考えられはじめているそうです。「『同意』というと、難しい契約の言葉のようですが、私たちは日々、『同意』を積み重ねて暮らしています。(中略)だからこそ『同意』を、あえて小さい子に教えるのは、難しいことかもしれません。特に、大人自身が「同意」について教わったことがなければなおのことです」と解説には綴られています。この絵本が「同意」をまだ小さな子どもに伝える手助けになるでしょう。

子どもの尊厳を守るために役立つ絵本

 この本は大人にとっても多くの気づきがあります。子ども向けなのでさらりと読めてしまいますが、子どもの問いかけと猫の表情や行動にじっくりと目を凝らしていると、読めば読むほど「同意」が肌感覚で伝わってきて、シンプルながらよくできている本だと感じました。

 6歳の息子も最初は不思議そうに眺めていましたが、「あ、猫が怒った!」「今度は笑ってるよ」などと少しずつ理解しようとしているようです。「これやってもいい?」という問いかけはもちろん、その問いかけへの答え方も学ぶことができる本書。周りの人たちだけでなく、子ども自身の尊厳を守るためにも、親子で繰り返し読み、実際に親子間でも問いかけを試していきたいと思っています。

文=吉田あき