小西詠斗「なんでこの仕事をしてるのか不思議」少年少女の半生を描いた主演作『尾かしら付き。』にちなみ自身の過去を振り返る
更新日:2023/7/7
累計15万部を突破した、佐原ミズ氏の人気コミック『尾かしら付き。(ゼノンコミックス)』(コアミックス)。少年少女の半生を描く本作の実写映画が8月18日(金)に公開される。上映に先駆け、しっぽの生えた主人公・宇津見快成を演じた小西詠斗さんに、ご自身の人生を振り返りながら作品を語ってもらった。
(取材・文=篠田莉瑚 撮影=金澤正平)
■コンプレックスのせいで排除される感覚は、すごくわかる
―― 原作のコミックを読んだ感想から聞かせていただけますか?
小西:最初読んだ時はかなり繊細なお話だなと感じました。僕が演じた快成は尻尾が生まれつき生えていて、そのせいで周りからすごくバカにされたり避けられたりしています。でもそれって、結構誰にでも当てはまると思っていて。誰にでもコンプレックスや人と違うところは絶対あると思うんですけど、そのコンプレックスのせいで周りから排除されてしまう感覚は僕もすごくわかりました。快成の尻尾はまさにその象徴だなと。
その快成の前に那智が現れて、完全に殻にこもっていた快成がちょっとずつ変わっていきますが、那智みたいな「周りと違ってもおかしくないよ」とか「私はこう思う」と言えるような人が増えたらいいな、というメッセージ性も感じました。
―― コンプレックスのお話をされていましたが、小西さん自身が何かコンプレックスを感じられて実際に乗り越えた経験とかってあるんですか?
小西:コンプレックスはいっぱいあります(笑)。でもちょっとずつ気にならないようになってきたというか、気にしないようにしようというか。自ら友達に言ったりしてちょっとずつ気にならなくなったりするものはありました。
■自分の本音がわからなくなることもある
―― 今回の役柄は中学生を演じる必要があったと思います。小西さんにとって中学時代は10年前ぐらいですが、撮影でちょっと大変だったことや、中学時代を思い出さなきゃいけない場面はありましたか?
小西:中学生を演じる上で、どういう動きや表情をしたら中学生に見えるかな、というのはすごく悩みました。でも結構僕も快成みたいな引っ込み思案な中学生だったので、そこら辺はどちらかといえばやりやすかったですね。
でもやっぱり中学生になるって最初に聞いた時は「いや~、大丈夫?」って思いました(笑)。さすがにやるにしても高校生までだろうと自分で思っていたので。まだ中学生ができているのかわからないですけど、中学生役をいただけたのは嬉しかったですね。
―― 小西さんも結構引っ込み思案な中学生だったんですね。
小西:そうですね。なんで今この仕事をしているのかよくわからないですが、人前で自分の意見を言ったりとか、学校での発表とか、手を挙げて何か言ったりとか、そういうのが本当にできなくて。目立つのが苦手で、「トイレ行っていいですか?」とかも授業中言えなかったです(笑)。引っ込み思案だったのに、今なんで表現者の仕事をしているのか、不思議ですね。
―― そんな中学時代、何か思い出とか印象に残っていることってありますか?
小西:中学の途中で眼鏡を外しました! コンタクトに変えて、「こんなにも素晴らしいのか」という記憶は今でもすごく覚えています。「すごい視界が…!」って。しょうもない話しかないけど(笑)。
―― コンタクトにしたことで見た目や周りからの印象が変わって、引っ込み思案なキャラも変わったんでしょうか?
小西:まあ多少は、本当に多少は変わったのかもしれないですけど…でも自分的には変わった感じはしなかったですね。
―― ではその性格はだんだんお仕事する中で変わってきたんでしょうか? それとも演技に入る時はスイッチを切り替えていて、ベースは変わっていないんでしょうか?
小西:この仕事をはじめは騙し騙しでも元気にやっていたら、やっぱりちょっとずつ変わってきました。元々は人とコミュニケーションを取ることが本当に苦手だったんですけど、人とまともにしゃべれるようになった、とか。根本が変わっているのかわからないですけど、変わってきましたね。でもそれに伴って、自分が「本当はどういう性格だ!」とか、「自分が何なのか?」とかが全然わからなくて、よく考える時があります。
―― キャラクターを演じていると余計にギャップのようなもので?
小西:自分の本音って何なんだろうなとか、全然わかんないことが多いです。でもそれでモヤっとすると寝ます。起きたら、大体忘れます(笑)。
―― 今回の役柄について、宇津見くんは最初、周りから受け入れてもらえませんでしたが、那智と出会うことでどんどん周りに受け入れてもらえました。小西さんは成長して受け入れられるようになったものはありますか?
小西:野菜が食べられるようになりました!(笑) ここ一年ぐらいおいしい。ナスとか何があっても食べたくなかったんですけど、おひたしがおいしいです。ニンジンとかキャベツも以前は大嫌いでした。あと今までネギを料理に入れることが考えられなかったんですよ。ラーメンとかで食感を変えてくるのが嫌で。ラーメンって柔らかいじゃないですか? そこに「しゃきしゃきを混ぜないでよ」ってずっと思っていたんですけど、今では絶対に必要です。ネギは大量にあったほうがいい。やっぱり大人になると変わってくるんだなって思います。でもまだ食べられないものもあります。生のトマトとキュウリ。多分このまま克服できないと思います(笑)。
■仲間がいなければ、この業界から逃げていたかもしれない
―― 続いて、小西さんと『尾かしら付き。』の宇津見くんについてお伺いできればと思います。宇津見くんは転校を余儀なくされるような大変な状況がありましたが、周りの人々に支えられて、勇気を出して様々なことを乗り越えてきました。小西さんがこれまでに逃げたくなるような状況を乗り越えられた経験はありますか?
小西:逃げたくなることはいっぱいありますね(笑)。すごく覚えているのは高校生の時に出たミスターコン。けどそれが周りにバカにされて、本当にきつかったです。
―― それは「え? おとなしいあいつが?」みたいな感じですか?
小西:そうですね。すごくバカにされたりとかして、あの頃は全てから逃亡したくなっていました。途中でやめようと思ったんですけど、ミスターコンのメンバーと一緒にいるのがすごく楽しくて。これを手放すのは嫌だなと思って頑張っていました。
あの頃の経験に、すごく成長させてもらったなと思います。
―― 周りから結構色々なことを言われたとのことですが、活躍するようになって、言っていた人たちの目が変わってきたとか感じられるんですか?
小西:応援してくれるようになった人は増えたと思います。元々どう思われていたかわからないけど、応援してくれて嬉しいと思うことはすごくあります。
この間も親から連絡があって、地元の皆さんが僕の出たドラマとか、とにかくずっと情報を追っていてくれて、サインも頼まれたと親が喜んでいて、それがすごく嬉しかったです。
―― 宇津見くんは高校生の時、1人で那智に会いに行ってしまうくらい行動力に溢れていました。実際、小西さんは行動力があるほうだと思いますか?
小西:あんまりないと思います(笑)。でも1つだけとっさに動いてしまったことがあります。
僕は高校生の時に自転車通学で、通学路にコンクリートの高い壁があったんです。その上は全部森。夜中にその道の坂を下っていたら、猫の鳴き声が聞こえてきて。探してみたらその壁の上のすごく狭い幅に小さい猫がいて、こっちを見ながらニャーニャー鳴いていたんです。「ほっといたら死んじゃう!」と思って、咄嗟にその高い壁をがーっと登って、上に生えている草とか木をかき分けたら、その猫がこっちにてくてく歩いてきてくれた。
「ふー、かわいい」と思って、かばんに入ってもらって、家に連れて帰って。ただ当時、僕はインコを飼っていたので、一緒には飼えなかったんですよね。猫がインコを食べちゃうので。だから近所の方が引き取ってくださったんです。それから会いに行ってはいないんですけど今も生きていて、時々話を聞くので嬉しくなります。
■目標を作るなら「この仕事をずっと続けること」
―― 宇津見くんは最初、那智に会いに行くことに否定的でしたが、学校でいじめられっ子がリストカットをしたことがきっかけで、那智に会いに行く決断をしていました。宇津見くんの人生のターニングポイントはここでしたが、小西さんの人生のターニングポイントはどこでしょうか?
小西:19歳で思い切って東京に出てきた時ですかね。演技のお仕事がしたいと思って東京に来ました。
初めての一人暮らしが本当に大変で、1人が好きと言いながら、1人で生きていけないと気付きました。元々関東に住んでいた友達も住んでいるところがちょっと遠かったですし、業界でもまだそんなに仲良くなれる人なんていなかったですし、孤独でしたね。あととにかく家事に苦労しました。全部親がやってくれていたんだ、とその時すごく感じました。
―― 過去のインタビューで「これからの目標を決めていない」とお話しされていました。実際今はどう考えていますか?
小西:目標という目標は明確にないです。もちろん全力で頑張って、ずっとこの仕事を続けていきたいというのは一番にあります。自分がやれることをやって、周りの人の手も借りて、ですけど。これから最終的に自分がどうなっていくかというのは、自分でも楽しみな感じ。もし簡単に目標を作るなら「ずっとこの仕事を続けていること」です。
―― 一つ一つ、目の前のお仕事をやってこられたと思います。改めて、これまでやってきたことがこの作品にどう生かされたか、これまでの中でご自身にとってどんな位置づけの作品になりそうですか?
小西:僕にとって、ちょっと成長したのかなと思えた作品でした。すごくプレッシャーだったり不安だったりを感じていたんですけど、今までを信じて、できる限りのことを全力でやろうと思って。昔は作品が終わったあとにすごく「ああ、あれだめだったな」とか、「ああ、もう1回やりたいな」とか思っていたんです。でも今回は「自分ができることを全部やりきれたかな」と思って終われたので、成長したし、忘れられない作品ですね。もっともっと成長していきたいです。
―― 目標は明確に決めていないとのことですが、今後なにか挑戦したいことはありますか?
小西:まずお芝居はこれからずっと頑張っていこうと決めているんですけど、ミュージカルとかももっと頑張ってみたい。歌を頑張ってみたいと、ちょっと思っています。
―― 今回はストレートプレイの映画ですが、映像のミュージカルや舞台のミュージカルではまたそれぞれ違いますか?
小西:舞台と映像は完全に種目が違いますね。作り方からお芝居のやり方、間やテンポの取り方、全然違うので、そこはうまく切り替えられるように意識してやっています。あと映画が元々大好きだったので、映画をたくさんやりたいなとすごく思います。そこは変わりません。
―― 映画好きとして今回の主演というのは、やっぱりすごく大きいことでしたよね。
小西:びっくりですね、すごく嬉しかったです。ずっと映画に出たいと思っていたので、まさか主演をさせていただけるとは、すごく幸せなことだとずっと思っています。
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