突然聞こえてきたDIOの声…。そこに暴走した車が歩道を歩く親子に突っ込んでいく!/クレイジーDの悪霊的失恋 ージョジョの奇妙な冒険よりー⑤

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/11

3.

(な、なんだコイツ――この髪型はッ?)

 ホル・ホースは世界中を旅してきている。色々な人間たちと会ってきた。不思議な風習の数々に遭遇してきた。

(だがこんなヤツは見たこともねえッ――こんな奇妙な髪を頭に載っけて、それで町ン中を平気で歩き回っているよーな常識を超越した埒外の人間はよォ――ッ)

 前髪を大きく前に突きだした形にまとめている――その大きさからして、髪自体は相当な長髪のはずだった。男の癖にかなりの時間と手間を掛けて髪を伸ばして、それでわざわざこんなハンバーガーみたいな形にするというのは、どういう精神構造なのだろうか――これがジャポニズムというものなのだろうか?

(傾奇者、ってゆーヤツなのか……?)

 しかしいくら異様な姿をしていても、それは現在においては重要なことではなかった。

 問題なのは――こいつが敵意を剝き出しにして迫ってきていて、かつ……

(スタンド使い…… !)

 だということだった。しかも車を一撃で吹っ飛ばしたことから見て、とんでもなく強力な……

(ストレートなパワー型――あからさまに戦闘的なタイプだ……ッ!)

 ホル・ホースは車を撃つためにかまえていた〝拳銃〞を下げられない。少年――東方仗助の方に銃口を向けたような形を維持し続けている。

「なあ、カウボーイのおっさんよォ――ッ……どういうつもりか、って訊いてんだけどな、こっちはよォ――ッ……」

 言いながら、仗助は近づいてくる。その両眼が異様だった。

 冷たく凍りついているようにも、激しく燃えているようにも見える。

 その眼で睨まれた者はただではすまない――そういう不気味な光を放っている。

「う――」

「アレか? なんか自分に酔ってる、ってヤツなのか? ガンマンの格好をして調子に乗って、西部劇気取りでバンバンぶっ放したい、っていう――そういう傍迷惑なマヌケなのか、あん?」

「――」

「馬鹿みたいだって思わねーのか、そんな格好は――その帽子、そんなもん被っているヤツがこの辺にいるか? 客観的に自分を見れねーんじゃあないのか?」

 ホル・ホースは思わず、テメーに言われたくねーよ、と言い返しそうになる。しかしそこはぐっ、とこらえて、

「おまえは――おまえが今の暴走の原因か?」

 と、できるだけ冷静そうに訊いた。内心の不安を押し殺して、クールな態度を装う。

「ああ?」

 仗助の眉がひそめられる。ホル・ホースは怯まず、

「あの運転手――すさまじく恐怖におののいていた。あれはおまえのせいか。おまえが、そのスタンドで脅したのか?」

 とさらに問いを重ねる。仗助はますます訝しげな顔になり、

「スタンド――?」

 と訊き返してきた。ホル・ホースは、そうか、こいつはスタンドという名称を知らない……他のスタンド使いに遭遇したことがないのか、と悟った。

「おまえのその、常人にはない特殊な〝能力〞のことだよ――」

 ホル・ホースはそこで、ちら、と吹っ飛ばされた車に視線を向けた。仗助から眼を離せないので横目で見ただけだったが――それでも、あれ、と思った。

(ない――ぶん殴られたような、車体側面の凹みがないぞ……?)

 確かにそこにあったはずだった。横から突っ込まれて抉られていたはずだった……だが今はその痕跡がまるで残っていない。

 なおってしまっている。

(どういうことだ……どういう理由なんだ、あれは――)

 いったん壊れたはずのものが、そこだけ修復されている――しかしホル・ホースが射抜いたタイヤやショーウィンドウに突っ込んだときの損傷などはそのままである。

(こいつの――このガキが攻撃したところだけ、まったく痕跡が残っていない、っつーのか……?)

 能力の性質が読めず、ホル・ホースはさらに戦慄した。そんな彼を前に、仗助は、

「スタンド――っていうのか?」

 と呟いた。それから唇を尖らせて、

「もしかして、側に幻影が現れて立つから、スタンド――なのか? なるほど……考えたヤツは冴えてるな」

 うなずきながら言う。それからホル・ホースをあらためて睨みつけて、

「で――運転手がどーしたって?」

 と訊いてきた。威嚇されっ放しである。

(くそッ、舐めるなよッ、おれは自慢じゃないが、大した実力もねーのに口先のハッタリだけで他の超強力なスタンド使いたちの間を渡り歩いてきたんだぜえーッ――会話の主導権だけは絶対に譲らねーぞッ)

 ホル・ホースはなんだか訳のわからない闘志を燃やして、

「――勘弁してやるよ」

 と不敵な笑みを浮かべて言った。

「あん?」

「頭を撃ち抜くのは勘弁してやる――その格好いい髪型を乱すのは悪いからな。ブチ抜くのは心臓の方にしてやるよ。せめてもの情けだ――」

 自信たっぷりな様子を演出しながら、芝居がかったことを言う。

「墓に入るときには、綺麗な姿のままだ。それなら安心して死ねるだろう?」

 ホル・ホースは挑発したつもりだったが、日本では火葬が一般的で、遺体は残らないことを知らないので、そういうズレたことを言ってしまう。だがこれに仗助の方は言い返さず、

「――ちょっと待て」

 と、眉の辺りに指をあてて、何かを考えるような仕草をする。

「あんた、今――なんて言った?」

 その声に変化がある。威圧感も何もなく、ただ質問しているだけ、という軽いものに変わっている。迫力がなくなっている。ホル・ホースは、む、と訝しんだが、一応、

「だから、ブチ抜くのは心臓の方で――」

 と繰り返そうとしたが、これに仗助は、ばっ、と手を上げて遮り、

「いや、そうじゃなくて――その前だよ。なんて言ったんだ?」

 とさらに訊く。ホル・ホースは少し混乱してきたが、仕方なく、

「あの運転手は、おまえが脅したのかって質問したんだが――」

 と言うと、さらに仗助は首を横に振って、

「いや、それの後だよ。その間だよ――あんた言ったよな? 確かに言った――なんて言ったのか、もう一度はっきりと口にしてくれねーかな?」

 と変な真剣さを伴って、懇願するように訊ねてくる。ホル・ホースはもう何がなんだかさっぱりわからず、何を言ったっけ、と少し考えてからやっと思い出す。

「えーと、だから――頭を狙うのは勘弁してやる、格好いい髪を乱すのは悪いから、って言って――」

 とホル・ホースが喋っている途中で、突然に仗助は、

「――そうッ! それ! それだよッ!」

 と大声を上げた。それは、事故で集まってきていた野次馬が驚いて、二人の方を一斉に振り向いたほどに大きかった。

 ホル・ホースは戸惑ったが、仗助はまったくおかまいなしで、そして急に満面の笑みを浮かべて、ずかずかと無遠慮にホル・ホースのところに歩み寄ってきた。まったくスタンドを出さずに、無防備に来た。あまりにも開けっぴろげなので、ホル・ホースには攻撃のタイミングがまるで摑めなかった。

「え、え――」

 動揺しているうちに、仗助は彼の前に立って、そして突き出したままのホル・ホースの手をがっちりと摑んで、大きく上下に振った。

「いやあ、わかってるねえ、あんた! 格好いいっしょ? そうっスよねえ〜〜〜ッ? この髪の毛って最高にクールでグレートだって思うよなぁ〜〜〜ッ? いやいや話がわかる男っスよ、あんたは!」

 底無しの陽気な声で話しかけられて、握手されて、しまいには肩を叩かれる。

「え? えええ?」

「いやあ悪かったっス! ちょっと勘違いしてたよォ〜〜〜ッ。あんたが悪いのかと疑っちまってた。しかしそいつはおれの勘違いだったみたいっスねェ〜〜〜ッ。あんたはいい人だよ。間違いねー」

「えええ? ええええ?」

「あー、あとそれから、あんたの格好もグレートだぜ。いやあ良く似合ってるっスよ、そのカウボーイの姿。最高にクールっスよ。うんうん」

「――えー……」

<続きは本書でお楽しみください>

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