池上彰ならなんと答える?「選挙ってなんのため?」親がうまく答えられない小学生の質問にズバリ回答。子どもに等身大の教養が身につく本
更新日:2023/7/27
少子高齢化や格差、地球温暖化、紛争など、世界は解決すべき課題ばかり。子どもたちが大人になる頃、困難が増え、社会は今より生きづらくなっているのでは? と不安な子育て世代も多いはずだ。複雑化する社会問題に向き合いながら賢く生きる知恵を我が子に身につけさせることが、小学生や就学前の子どもを持つ親の大きな課題だろう。しかし、それをどう伝えていいかわからないし、そもそも大人である自分が社会問題を正しく理解している自信がない――そんな悩める親子が手に取るべきなのが、『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』(主婦の友社)だ。
本書は、幅広い世代に政治や社会をわかりやすく伝えてきたジャーナリスト・池上彰氏が手がけた、小学生向けの教養本。「お金」「政治」「歴史」「SDGs」「インターネット」という5つのカテゴリーごとに、小学生が知っておくべき教養を伝える。「税金はなぜ払わなくちゃいけないの?」「選挙ってなんのためにやるの?」「男同士、女同士でも結婚できるの?」といった子どもが抱く疑問に答える形で、池上氏がさまざまな問題を解説していく。
本書の最大の特徴は、知識を伝えるだけでなく、読者にその問題や、世界の未来を考えさせる仕組みになっていること。池上氏は「はじめに」で、「教養がある人」とは、単に多くの知識を持っている人ではなく、さまざまな知識や、違う分野の問題の関係が頭の中に整理されていて、人に何かを相談されたとき、それらを引き出してアドバイスができる人だと伝えている。本書は、そういった真の知識人に読者を導くための工夫が満載。小学生にとって身近な具体例や、「この問題がこのまま続くとどうなるか?」といった投げかけを通して、子どもたちが問題を自分事として理解し、等身大の教養を身につけられる仕組みになっている。
中でも第4章の「SDGsの教養を身につけよう」では、貧困、環境問題、ジェンダーギャップなど、SDGsの17の目標に関する問題を学ぶことができる。ここでも、小学生が自分の感覚で問題を理解できるようなテーマ設定や例示が魅力的だ。たとえば、世界の貧困を解説するページでは、1日に使えるお金が、ハンバーガー1個分程度の250円にも満たない人が世界に7億人以上いると伝える。また温暖化については、「大好きな回転寿司もなくなっちゃうの?」という切り口で、海の水が温かくなると魚がとれなくなる仕組みを解説。非正規雇用や男女間の収入格差など、子どもたちがこれから直面していくであろう日本社会の問題も、丁寧に解説されていてありがたい。
第5章の「ネットの教養を身につけよう」で得られる学びも、今の小学生には必須だろう。SNSの功罪や、ネットには新聞やテレビと比べて不確かな情報が多い理由、自分に興味のある情報ばかりが出てきて視野が狭くなるリスクなど、大人も改めて認識すべき重要な教養ばかりだ。ネットを活用しながら、ネットだけに頼らずに知識を深めていく方法も、これからの複雑な情報化社会を生きる子どもたちは知っておくべきだろう。
本書を読んで強く感じるのは、「私も子ども時代にこの本に出合いたかった」ということ。今している勉強が将来にどうつながるのか、自分は社会で何をしたいのかをイメージできず、漫然と学生時代を過ごした人は少なくないだろう。本書を読むことで子どもたちは、戦争の理不尽さや、世界で困っている人がいること、社会課題と自分の生活の関わりを知り、「この世界で自分は何ができるのか?」と深く考えることができる。そして、病気をなくしたい、温暖化を止める方法を見つけたいなど、やりたいことや夢を見つけられるのではないだろうか。子どもの教養だけでなく、生きる力や可能性を広げてくれる心強い1冊だ。
文=川辺美希