『クレイジーDの悪霊的失恋 ─ジョジョの奇妙な冒険より─』を読んで TSUTAYA仕掛け番長 栗俣力也インタビュー
公開日:2023/7/7
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年8月号からの転載になります。
本編と小説が補完し合う半永久的世界観
「スピンオフではなく『ジョジョ』そのもの。荒木飛呂彦先生が降りてきているのでは、とすら思いました」
書店店頭から数々のヒット本を生み出してきた、TSUTAYAの仕掛け番長・栗俣さんも、「ジョジョ」を深く愛するファンの一人。『クレイジーDの悪霊的失恋─ジョジョの奇妙な冒険より─』は「特別な小説」と絶賛する。
「マンガではないのにマンガ的な読み方ができる。本来文字で表せないところまで表現されています」
例えば冒頭。花京院典明がDIOに肉の芽を埋められるシーン。
「DIOは花京院に『一瞬だけホッとしたな』と言います。ごく普通の一言ですが、『ジョジョ』ファンなら間違いなくゾッとする。この言葉が『ジョジョ』ファンに何を想像させるか。それをリンクさせることで、言葉の意味すら変えてしまっている」
栗俣さんは、この小説によって自身の“「ジョジョ」体験”が甦ったと言う。
「第3部までのDIOは絶対的な存在で、“恐怖”でした。一方第4部は、たくさんの登場人物がヒーローによって助けられる“再生”の物語だなあと。本編を読んだ当時の感情、エモさを丸ごと思い出すというか、あの空気の中に自分の感情が再び入っていくというか」
『クレイジーDの悪霊的失恋』を読むことで、おそらく皆、「ジョジョ」の思い出、“自分にとっての『ジョジョ』”を語りたくなる。
「そういう意味でも、やはりこの小説は正式な本編の一部。『ジョジョ』第3.5部と言えるんじゃないでしょうか」
さらにもう一つ、『クレイジーDの〜』が特別である点は……。
「この小説1作で、『ジョジョ』シリーズ全体を感じることができます。導入部分は本編の第1部、第2部の雰囲気、中盤のドキドキわくわくする展開は第3部、第4部、後半は第5部、第6部のタッチに近い」
上遠野さんは意識的にセリフ回しや表現、構成を変えて、そういう流れを作っているのではないか、と栗俣さんは想像する。
「『クレイジーDの〜』は、『ジョジョ』が築いてきた少年マンガ誌の歴史も味わわせてくれると思います」
この小説は「『ジョジョ』を読んで面白いと思ったことのある方は絶対買うべき」だし、同時に「ジョジョ」を知らない方にもおすすめしたい。
「ジョースターとDIOの宿命やスタンドなど、『ジョジョ』の世界観のベーシックな部分も本質もすべて書かれているので、“『ジョジョ』入門書”のような小説でもあります。まずこれを読んでから、過去編として本編第1、2部、未来編として第4部以降を手に取る、という楽しみ方もできます。サクサク読める面白さなので、小説は初めてという方にもとても読みやすいと思いますし、純文学が好きな方にも魅力的な本です。本当に全方位におすすめしたい一冊です」
栗俣力也
くりまた・りきや●東京都生まれ。TSUTAYAの「仕掛け番長」の愛称で知られる。著書に『きっと、誰よりもあなたを愛していたから』(原案)など。