アプリ開発のはずが「シャブ」を納品する男!? IT業界のシュールなショートショート・ギャグマンガ
更新日:2023/7/21
今、数か所のサーバが落ちたら、日本全国が立ちゆかなくなるのでは。そんなことすら考える、IT時代。コロナ禍でリモートワークが進み、働き方の自由度はここ数年で格段に上がった。
サーバメンテナンスにアプリ開発、会社で使うパソコンの設定に、WEBサイトのデザインなど、一口にIT業界といっても仕事内容はさまざまである。共通するのが「想像以上にブラックな部分がある」かもしれない。
そんなIT業界のあるあるを描いたコミックが『ITおじさん』(山田しいた/ヒーローズ)。IT業界の悲喜こもごもが迫力ある絵とテンポの良いギャグで繰り出される作品だ。
ないようであるようでやっぱりあるあるIT業界ネタ
基本は独立したショートコミックが連作短編集の形になっている。プロローグを経て第1話。主人公のITおじさんは覚醒剤を納品される。
なんで?と思うだろう。私も初見で思った。主人公のITおじさんは仁王立ちで詰め寄るが、話はどうにも不穏な方向にしか転がらない。
その後、
「業務改善(ビジネスインプルーブメント)を専門(スペシャライズ)とする相談業(ITコンサル)を生業(ドゥ)としている」
と語る男が登場。()内は原文ママである。
何故覚醒剤が納品されたかを解説してくれるが、それがまたトンチキな結果に……。この説明で、大体このマンガの雰囲気がわかってもらえただろう。
とにかく「ないよ!」「なんでよ!」とツッコミを入れたい展開が畳み掛けられ、今自分は何を読まされているのだろうと冷静に思う一方で、妙にウケてしまうのだ。
とはいえ、ネタの根っこはIT業界、ひいてはお仕事のあるある。ふんだんに盛り込まれたそれに、働くみなさまはきっと自身の経験を重ねることもあるだろう。仕事でトラブルを抱えたことのある人、どうしてこんな状況に……と遠い目をしたことのある人は共感できるはず。ITあるあるがわからなくても十分面白いし、解説も入っているので安心してほしい。
私のおすすめは「#神頼みのサーバ運用」。サーバは人事を尽くしたら神頼みしかないから御札が貼ってあるという「マジ」のネタから、次々と繰り出される神頼みがみどころである。もうなんだか全部が面白かった。私はIT系業種の出身ではないが、サーバメンテナンスに体力を消耗している友人がいるので、心の中で手を合わせて読んでしまった。
すでに歴史書的側面があるITおじさん
1巻・2巻どちらも2021年12月に発行されているのだが、この時期を覚えているだろうか。
2020年1月、新型コロナウイルスの国内初の感染者が確認され、オリンピックが延期。さらには4月に緊急事態宣言でステイホーム。2021年にも二度目の緊急事態宣言が発令されている。
あまりにも目まぐるしかったこの2年間をリアルタイムでマンガにしてあるため、2023年に読むともはやちょっとした歴史書のような趣がある。
例えば、2巻後半、ITおじさんがClubhouseにドハマりする。これが中盤のクライマックスへと広がっていくのだが、私自身Clubhouseに入り浸っていた経験があるので「懐かしい……」という感情が呼び起こされた。(ちなみに、そこで知り合った方々とは今も良い友人である)。
他にも、ワクチンが開発されていなかった時期の不安がずっと消えない外出、シェアオフィスの利用が増えてきたころの感染対策、あのとき誰もが抱えていた不安がギャグを交えて描かれる。
すべてが良い思い出とは言い難いが、一抹の懐かしさを噛み締めながら読み進めた。もちろんITおじさんが遭難したり押し込み強盗もどきに遭ったりと(なんで?)ギャグも満載なので安心してほしい。ITおじさん、サーバを神頼みするだけではなく、自分自身もお祓いに行ったほうがいい……。
クセになる世界に巻き込まれて
ITおじさんは「おじさん」というだけあって、部下がいる。コロナ禍の中、部下たちのサポートをちゃんとしてくれる良い上司で、そういった面も魅力的な人である。しょっちゅういろんなことに巻き込まれるITおじさん。クセになるおじさんの世界に、あなたもぜひ巻き込まれてみてほしい。
文=宇野なおみ