仕事の効率をアップさせる秘訣!「不完全さ」を受け入れ「わからないこと」を共有しよう
公開日:2023/7/4
ちょっとした修正のはずなのにものすごく時間がかかる。分業などを進めたが効率アップにつながらない。たくさん作ることと生産性の高水準が両立できない……。
上記のどれかに「わかるわかる」と心あたりのある人にオススメなのが『人が増えても速くならない ~変化を抱擁せよ~』(倉貫義人/技術評論社)です。ソフトウェア会社・ソニックガーデンの代表を務める倉貫義人氏は、エンジニアリングの見地から、ほかの分野にも通用する「真の効率性、生産性」を惜しげもなく本書で共有しています。
ソニックガーデン社の特徴のひとつは、月額定額、成果契約の顧問サービスを提供するビジネスモデル「納品のない受託開発」で、船井財団「グレートカンパニーアワード」で2016年にユニークビジネスモデル賞を受賞しました。そのロジックを応用しつつ2018年から倉貫氏は「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムに社外取締役として参画し、2022年グロース市場への上場に貢献しています。ソニックガーデン社は2018年に「働きがいのある会社ランキング」従業員25~99人部門の5位に入賞もしています。
このように「働き方」と「生き方」を巧みにブレンドさせてきた著者の哲学を凝縮させた標語が、「変化を抱擁せよ」です。具体的にどのような意味なのか理解するには、本書で紹介されているウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いを知るとわかりやすい。
ウォーターフォール開発は、水が高いところから低いところに向かうように、各工程を後戻りしない前提で開発を進めていくプロセスです。そしてアジャイル開発(アジャイル=「機敏」の意)は小さく素早く、しばしばの仕様変更を前提として開発を進めていくプロセスです。どちらが良いとか悪いとかというわけではなく、両者は根本的に物事の捉え方が異なります。
最も顕著な違いは、著者がエンジニアリングにおいて主軸にしているアジャイル開発においては「後戻り」が当然であるという点です。ウォーターフォール開発では念頭にない「後戻り」は、アジャイル開発では当然で、むしろ大きく進むために必要なプロセスとすら考えられるのです。このようなスタンスは見積もりの出し方にも表れます。
不確実な状況が多数ある中で、守れる見積もりを出すとしたら、最大限にリスクを盛り込んだものにしたくなるはずです。つまり、絶対に見積もりを守ってもらいたいと望むならば、エンジニアたちは絶対に守れる見積もりを出してくることになります。そうすると、想定していたよりもずっと大きな見積もりになってしまうでしょう。
つまり、一見矛盾するようですが、「後戻り」したり確認・調整したりする工数が増えたとしても、小さく着実なステップを重ねていくほうが、結果的に費用が「大きくなる」リスクを抑えられるということになります。本書のオビの背表紙側には「変化に適応するために不完全さを受け入れよう」という言葉が書いてあります。この「不完全さ」とは妥協ではなく、良いものを作るために重要なエッセンスなのです。
「小さく分割したことで、当初よりも予定が大幅に伸びそうだ」
そう感じることがあるかもしれません。しかし、もし小さなプロジェクトを並べたことで、大規模プロジェクトよりも長い計画になるのだとしたら、じつは大規模プロジェクトの見積もりが外れていて、そもそもそれくらいはかかるものだったのです。
このように、「変化を抱擁する」ことができる思想は、どちらかというと「わかることの共有」ではなく「わからないことに対する連帯」に宿ります。そして、その連帯によって、「わかること」の共有と探求は、自律的、自発的に行われるようになります。これが「真の効率性、生産性」なのだと筆者は感じました。自分自身やチームの仕事フローをより機敏にする具体的な秘訣を知りたい人は、ぜひ本書を手に取ってください。
文=神保慶政