ジョジョ第3部と第4部の狭間を描くスピンオフマンガ。S市杜王町を舞台にホル・ホースや花京院の従妹が登場『ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋』

マンガ

公開日:2023/7/13

ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋
ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋』(カラスマタスク:漫画、上遠野浩平:原作、荒木飛呂彦:Original Concept/集英社)

 2023年6月に3巻が発売され完結したコミックス『ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋』が面白い。『ジョジョの奇妙な冒険』の初めてのスピンオフコミックということで、『ウルトラジャンプ』(現在、「ジョジョの奇妙な冒険」第9部『The JOJOLands』が連載中)での連載開始時から話題を呼んでいたこの作品。単行本の累計発行部数(紙&電子を含む)は3巻発売時点で早くも50万部を突破し、ヒット作となっている。

 本作の原作は、3巻と同時に発売された上遠野浩平さんの小説『クレイジーDの悪霊的失恋-ジョジョの奇妙な冒険より-』だ。マンガと小説、それぞれに魅力があるので、演出やストーリー展開の違いを見比べてみるのも楽しいと思う。

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第3部の人気キャラが杜王町で仗助と出会う

『クレイジー・Dの悪霊的失恋』は、ジョジョ第3部と第4部の狭間を描く物語だ。「ジョジョ」ファンならば、まずこの世界線にそそられないだろうか。

 主人公は、第3部でDIOの配下にあり「皇帝」と呼ばれていたスタンド使い、ホル・ホース。空条承太郎たちとの戦いから10年後、私立探偵になった彼は、かつての相棒・ボインゴと共にDIOの飼っていたオウムを追うことになる。ボインゴの漫画の予言に導かれてやってきたのは、あのS市杜王町! そこで彼は、第4部の主人公・東方仗助と出会うのである。さらに杜王町を訪れている者がもう一人。花京院典明の従妹・花京院涼子だ。

 ホル・ホースとボインゴはDIOの配下の中では一、二を争う愛されキャラだったし、花京院典明はいうまでもなく空条承太郎の仲間として屈指の人気を誇った。第3部の人気キャラの“その後”が、杜王町で動き始めるのだ。しかも、東方仗助との邂逅を経て。

“失くしたもの”を取り戻す物語

『クレイジー・Dの悪霊的失恋』第1巻は、花京院涼子のモノローグで始まる。「私が大切なものを失(な)くしたあの日のエジプトの空を それ(鳥)は漂っていた」。これはとても象徴的な言葉だ。

 ホル・ホース、ボインゴ、花京院涼子の3人に共通するのは、“大切なものを失くしている”ということ。ホル・ホース、ボインゴはDIOによって“自分”というものを見失い、前髪を“花京院ヘアー”にしている涼子は、従兄を忘れることができない。

 杜王町で彼らは、その“失くしたもの”と対峙することになる。ホル・ホースは死んだはずのDIOの声を再び聴いて恐怖し、ボインゴは予言の漫画から引き離され、花京院涼子は従兄の死の謎を追い求めずにはいられない。

 東方仗助という存在は、彼らに何をもたらすのか? 彼らの人生は、DIOの恐怖を越えてその先へと進んでいけるのか。花京院典明がDIOに肉の芽を埋められたいきさつ、仗助の祖父・良平が警官として活躍する様子など「ジョジョ」ファンにとって嬉しい描写も多数。3巻のラスト、第4部への橋渡しも美しい。「ジョジョ」が足りない、もっとほしい!という方には、とてもおすすめの作品だ。

文=松井美緒