家に、大切な宝物がまたひとつ増えた。2007年にN.Y.ブルックリンで、ステファニー・ハウズリーにより設立された、刺繡を生かしたインテリア・プロダクトブランド「CORAL ＆ TUSK（コーラル アンド タスク）」。旅や自然、動物などを題材にしたストーリー性あるデザインと、ハンドメイドのような風合いの刺繡が大人気のこのブランドの作品集『CORAL ＆ TUSK　コーラル＆タスク　15年間のものづくり』（主婦の友社）は、私たちを幸せな気分にさせてくれる。この本は、2023年6月に500部限定、2万5300円で発売された刺繡布特装限定版『CORAL＆TUSK』が大好評となり、あっという間に品薄となったことをキッカケに誕生したもの。多くのファンからの要望に応えて、刺繡布特装を通常の紙のカバーと帯に変え、限定版から巻末16ページを減らし、ステファニーへのインタビューページを含む32ページを1色刷りにすることで、低価格版として3300円で刊行されたのがこの作品集なのだ。リアルなタッチなのに、ユーモアがある、愛らしいデザイン。CORAL ＆ TUSKの世界観を存分に味わえるこの本は、読む者の心を優しく癒してくれる。

　巻頭では、ステファニーの自宅やアトリエ、作品が生まれる場所やふだんの暮らしが紹介される。2016年に移住したというワイオミング州の大自然も美しい。写真を眺めているだけで、心洗われる気分になるのは、私だけではないだろう。

　続く、「15年間の軌跡」の章も見ものだ。この章では、設立から15年間で発表された主なアイテムを、180ページにわたり解説している。やっぱり印象的なのは、2011年に誕生したポケットドールの動物たち。人形にはポケットとその中に入れる小物のほか、ドールの性格を説明するカードもついている。2022年までに作ったドールは全部で17種類あるそうで、本書では、すべてのドールが紹介されている。まるでおとぎ話の中から抜け出してきたかのような動物たちは、個性的で、ちょっぴりシュール。無表情なところがかえって可愛らしく、大人たちの心を掴むのも納得。眺めているだけで、思わず笑顔にさせられてしまう。

　さらに、漫画家・ほしよりこさんや俳優・石田ゆり子さんとのコラボアイテムについても解説。どの商品もなんて愛らしいことだろう。石田さんは語る。

「ステファニーさんから生まれる世界は、どんなときでも私をひきつけてやみません。夢があり、ユーモアにあふれ、少しシュールで。色合いが魅力的で、どこまでもかわいいのにシック。そして、絶対的に大人の洗練がある。」

　本書では、着想からスケッチ、インドの刺繡工場で製品ができるまでの制作過程についても明かされているが、CORAL ＆ TUSKは手刺繡のような温かみのあるユニークなデザインを、テクノロジーを使って生み出しているのだとか。一般的に刺繡用ミシンでは、絵をスキャンすれば自動的に刺繡ができ上がるが、CORAL ＆ TUSKではすべてが手作業。ステファニーさんは自身が描いたイラストを、専用のソフトウエアでスキャンし、その上からデジタルのペンで描いて刺繡ファイルを作っていく。動物の毛の流れ一本一本まで、こまかく、入念に。そうやって丁寧に作り上げられたデザインだからこそ、こんなにも私たちを虜にするのだろう。

　CORAL & TUSKの魅力を網羅したこの作品集を読めば、もっともっとこのブランドのファンになってしまう。ページをめくるだけで、ポカポカ心が温かい。自分へのごほうびとして、ずっとずっと手元に置いておきたい1冊だ。

文＝アサトーミナミ