30万人に1人といわれる難病「道化師様魚鱗癬」の息子。両親が綴った心の軌跡。すべては、我が子の難病を知ってもらうため
公開日:2023/7/16
子どもが産まれるとき、誰もが「五体満足で健康な我が子であってほしい」と願うはず。しかし、治療が難しい難病を抱えて産まれてくる子が一定数いるのも事実だ。
本書『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』(ピエロの母/ベストセラーズ)は、難病の中でも治療法が確立していない「指定難病」に該当する「先天性魚鱗癬(せんてんせいぎょりんせん)」をテーマにしたブログが、書籍化された作品である。産まれてすぐ、先天性魚鱗癬の一種「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」と診断された男の子・陽くんと、その家族の日々が赤裸々に綴られている。
「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」の名前の由来は、その様相がピエロの道化衣装のように見えるから。「先天性魚鱗癬」の中でも、もっとも症状が重いと考えられており、中でも保湿機能や肌のバリア機能不足による細菌感染には注意が必要だという。実際に陽くんも、産まれてすぐには退院できず、3カ月以上入院したとのこと。
当然、出産後の両親の心中は穏やかではなかった。自分の子どもに難病を抱えさせてしまった悲しみ、「難病を抱える我が子を育てていけるのか」という不安。そのため、書中には母親から陽くんへの謝罪、自身の心を自ら打ち砕くような言葉が数多く見られた。父親もコラムページに、当時の気持ちをこう書いている。
“周りでよく耳にする言葉、「健康に産まれてきてくれたら何も望まないよ」 私たちもそう言っていた。それすらも叶わないのか。(中略)神も仏もない。”引用元:『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』ベストセラーズ p.54
それでも2人が、陽くんと道化師様魚鱗癬に関するブログを発信し、書籍まで出そうと思ったのはなぜか。それは、より多くの人たちに、道化師様魚鱗癬のことを知ってもらうためだ。病気が知られていないことで感じる辛さから息子を守りたい。そんな思いがひしひしと書中の言葉から感じられる。身バレ、SNS上での批判、誹謗中傷が見境なく行われる現代において、2人の行動はとても勇気が要ることだったに違いない。
読了後に感じたのは、難病や障害がある当事者や、その家族から語られた言葉に耳を傾け、理解しようとすることの大切さだ。きっと陽くんの両親は、我が子について書くにあたり、多くの批判や疑問が投げかけられ、心が折れた日があったはず。「病気を知ってもらうため」と、グッと唇をかみしめながら書いたエピソードもあるだろう。
でも僕は、本書をきっかけに「道化師様魚鱗癬」を知った。また書籍を通して当事者とその家族の苦悩や努力の一端に触れることで、より深くこの病気を理解できたと感じる。難病について理解を深めたいと考える人には、ぜひ勧めたい1冊だ。
ちなみに本書で書かれているのは、陽くんが2歳になるまでの軌跡。その後の生活はYouTubeチャンネル「CBCドキュメンタリー」の動画「ピエロと呼ばれた息子」で配信されている。2023年4月から小学校に入学した陽くん(動画内では賀久くん)。どんな生活が待っているのか、ぜひ書籍と併せてこちらも視ていただきたい。難病への理解が広がれば、きっと当事者とその家族の未来はもっと明るくなるはずだから。
文=トヤカン