レンタルなんもしない人が息子に読んでもらいたい1冊「全宇宙を支配する基本法は“愛”」【私の愛読書】
公開日:2023/7/31
自分自身を貸し出し、「なんもしない」サービスを提供する。そんなレンタルなんもしない人さん(以下、レンタルさん)が、いつもリュックに入れて持ち歩いている本とは?
さまざまなジャンルで活躍する著名人たちに、お気に入りの一冊をご紹介いただく連載「私の愛読書」。今回はレンタルさんにお話を伺った。
取材・文=野本由起 撮影=島本絵梨佳
どんな結果であろうと、ただ自分の行為に集中すればいい
──このたび、レンタルさんの著書『レンタルなんもしない人の“やっぱり”なんもしなかった話』(晶文社)が刊行されました。この中で、レンタルさんは「僕は心が荒むたびバガヴァッド・ギーターを開いてる」という一文とともに、ボロボロになった文庫の写真を掲載していました。この本が愛読書なのでしょうか。
レンタルなんもしない人さん(以下、レンタル):以前、別の取材で「人生で影響を受けた本」として『ツァラトゥストラかく語りき』(フリードリヒ・W・ニーチェ:著、佐々木中:訳/河出書房新社)、『バガヴァッド・ギーター』(上村勝彦:訳/岩波書店)、『ゆっくり、いそげ――カフェからはじめる人を手段化しない経済』(影山知明/大和書房)の3冊を挙げたことがあります。ただ、影響を受けて以降、読み返しているかというとそうでもない本もあるので、愛読書と言えるかどうか。かといって、今すごく読んでる本もないんですよね。
ただ、『バガヴァッド・ギーター』はポーチに入れて、いつも持ち歩いています。持っている意識はないんだけど、かばんに入っている本という感じですね。
──『バガヴァッド・ギーター』は、ヒンドゥー教の聖典だそうです。なぜ心が荒んだ時に、この本を読むのでしょうか。
レンタル:この中に「結果に執着せず、ただ行為のみに専心しろ」という教訓が出てくるんです。僕の場合、ネット上で悪口を言われて、それに反応しちゃってわちゃわちゃになることがよくあるんですけど、そうなった時に、この教訓を思い出すと「悪い結果に見えるけれど、そこにこだわらず、ただ自分のやることに集中すればいい」という気持ちになれるんです。
他にも、「人がすることはその人の行いに見えて、そうではない」という考え方も書かれています。古代インド哲学やヒンドゥー教には、ブラフマンという神様の存在があります。この世界では、ブラフマンがすべてを決めている。極端に言ったら、AさんがBさんを殺したとなった時にも、「AさんはBさんを殺せない。神様が決めないとそんなことは起こらない。神様の意思で殺したんだ」という考え方なんですね。自分がしたことやされたことは、「自分のせいだ」「こいつのせいだ」と思いがちですが、神様の意思だからしょうがない。この本を読むと、「嫌なことがあっても、それはもうしょうがない」と思いやすくなります。
──すべては神様が決めたことだから、自分も悪くないし、相手も悪くない。そういうことでしょうか。
レンタル:そうですね。「その経験が、ただ自分に与えられただけなんだ」みたいなことかな、と。昨今のSNSは、自己責任論がもてはやされ、人のせいにするのは良くないという風潮がありますよね。でも、自分は人のせいにしたい(笑)。『バガヴァッド・ギーター』は、人のせいにできる本ですね。人っていうか神様ですけど。
さらに言うと、古代インドの世界観では魂が永遠不滅のものとして存在しているんです。魂が肉体を着て現世にいますけど、死んだらその肉体を脱ぐだけ。人が生まれるとか死ぬとか言っても、魂は永遠にめぐっているので生きるも死ぬもあまり意味がないんです。そういう考え方も好きなところですね。なんだかよくわからないんですが、気が楽になります。
──面白い考え方ですね。
レンタル:仏教でも、「四苦八苦」という人が逃れられない苦しみについて語られますよね。あの考え方も好きです。逃れられない苦しみがあるんだと知っていれば、苦しいことがあっても「来た来た。確かに逃れられないな」となります。生きることって、苦しみのツアー。逃れられない苦しみを体験して、それを摂取して、魂のレベルが上がっていくのかなと思います。宗教などで描かれているこういう世界観って、めっちゃ面白いなと思っています。
──そうやって割り切ろうとしても、どうしても割り切れなかったことはありませんか?
レンタル:その瞬間はうわーっと思いますが、こういった考え方を思い出せば割り切れないことはあまりありません。
──ネットで誹謗中傷されるなど、一般の方よりも嫌な思いをされることも多いのではないかと思いますが。
レンタル:ひどい誹謗中傷を浴びて、過去には法的措置を取ろうかなと思ったこともありました。でも、法的措置を取るには、自分がその中傷によって傷ついたふうに振る舞わないといけないですよね。建前として「自分は傷ついたんだ」と思おうとしたこともありましたが、あんまり傷つかないんですよね。そこで嘘をつくのもどうかなと思って。だから、今後も法的措置に頼ることなく、やっていけるんじゃないかと思います。
本は、自分では言いづらいことを代弁してくれるツール
──レンタルさんは、普段からよく読書をされるほうですか?
レンタル:うーん、あんまり……。お勧めされて時間があったら読むことはありますが、それくらいですね。読書は、そんなにはしないほうだと思います。
──レンタルさんには息子さんがいらっしゃいます。息子さんに勧めたい本はありますか?
レンタル:絶版になっていますが、『アミ 小さな宇宙人』(エンリケ・バリオス:著、石原彰二:翻訳、さくらももこ:絵/徳間書店)という本は勧めたい。あれはめっちゃ面白くて、いい本です。
──この本とはどういうきっかけで出合ったのでしょうか。
レンタル:スピリチュアルな話をしたい依頼者から、話の流れで「この本を知っていますか?」と教えてもらいました。「絶版なので貸します」と言われて借りました。
──さくらももこさんがイラストを描いているんですね。
レンタル:宇宙人は地球に侵略してくるイメージがあって、フィクションでは悪い宇宙人ばかり描かれてきましたよね。さくらももこさんは、「いい宇宙人の話をもっと読みたい」と思っていたらしいんです。そんな中、この本にたまたま出合って「こういう宇宙人の話を読みたかった」と思ったそうです。それで、頼まれたからではなく、自分からイラストを描いたみたいです。さくらさんのマンガ『コジコジ』も宇宙人。ああいうかわいい宇宙人の話を描きたいという、強い意志があったようです。
僕も、さくらももこさんのイラストがあるから、読む時に安心感があって。正直このイラストがなかったら、めちゃくちゃスピリチュアルなので紹介しづらい本ですね。でも、いい本なので復刊してほしい。こうやってアピールすることで、もし本当に復刊したら、周りに自慢したいですね(笑)。
──レンタルさんも、宇宙人の話はお好きなんですか?
レンタル:そうですね。解明されてないこと全般が好きなので、その中のひとつという感じです。
──印象に残っているエピソードやフレーズはありますか?
レンタル:この本はフィクションなんですけど、文明のある星は地球以外にもたくさんあって、宇宙人もいっぱいいるという設定です。宇宙には基本法があって、それは愛なんですね。愛に反した行動を取ると何もかもうまくいかなくて、愛に沿った行動をすればすべてうまくいく。それがシンプルで面白いなと思いました。
宇宙人のメーターでは科学と愛のレベルが測れて、科学が愛を上回るとその惑星は自滅に向かっていくとされています。地球はまさにその状態なんだそうです。
──この本を読むことで、もっと愛ある地球にしたいという考えがあるのでしょうか。
レンタル:その質問に答えるのが、ちょっと怖くなってきました(笑)。でも、愛こそすべてだと思います。愛という言葉を使うと「ハートウォーミングだね」「情が深いね」という反応が返ってくるのは、愛が誤解されているから。ぜひこの本を読んで、愛を正しく理解してほしいなと思います。
ただ、こういうことって自分で口に出して言うと気持ち悪いですよね。本になっていると、ありがたいなと思います。それを勧めれば、自分では気持ち悪くて言えないことも伝わるので。
──自分が言うと気持ち悪く聞こえがちなことを、本が代弁してくれる。その考え方も面白いですね。
レンタル:今話していて、自分でも「そうだな、面白いな」と思いました。歌もそうじゃないですか。恥ずかしくて言えないことも、歌詞にして歌に乗せれば言える。本にもそういったところがあるなと思います。