ホワイトすぎる職場はなぜダメなのか? 組織と人を成長させる「仕組み」の作り方
公開日:2023/7/24
仕事のストレスを会社という組織のせいにしたり、自分の働き方を「社畜」と卑下したりしていないだろうか。いくらがんばっても、変わらない組織や上司のせいで報われない――そんな思いを持っているなら、本書『とにかく仕組み化──人の上に立ち続けるための思考法』(安藤広大/ダイヤモンド社)を読んでほしい。組織で働くことへのイメージと、明日からの行動が変わるはずだ。
著者は、株式会社識学の代表として、人を成長させるマネジメントについて解いてきた安藤広大氏。本書では、経営者やリーダー、また今後マネジメントを担うプレイヤーに向けて、人の上に立つ上で必要な考え方を組織内の「仕組み」に着目して伝えている。安藤氏がマネジメントを成功させる方法を伝えた『リーダーの仮面』と、仕事ができるプレイヤーを目指す人に向けて書いた『数値化の鬼』に続く第3弾という位置づけだが、他の2冊が未読でもわかりやすく、リーダーでもそうではない人にとっても理解しやすい内容だ。
著者はまず、ルールや部内での判断基準といった「仕組み」を整備することと、ひとりひとりの人材が、組織内の歯車として有効に機能することの重要性を伝える。カリスマや、能力が高い人が去ると機能しないような「属人化」がまん延する組織は危険であり、社長も含め、その人がいなくても仕事がまわる仕組みを作ることが不可欠だという。
その上で本書は、成長する組織と人に必要な考え方や振る舞い方を「仕組み」の観点から解説。上司による期限・責任の明確化や、意思決定のための線引き、本当の平等性を担保する客観的な評価・降格などを、「とにかく仕組み化」していくことが重要だと伝える。
中でも印象的なのは、成長に欠かせない「正しい危機感」を生むマネジメントについて伝える第2章だ。古い体制が残る会社にありがちな長い説教や人格否定などは、ただ部下を怖がらせるだけのムダな言動だ。「○○を達成すれば評価する」「未達なら評価しない」という明文化されたルールの提示と、成果という事実に基づいて部下と接することが、彼らを具体的な改善へ向けて動かす「正しい危機感」を生むことができるという。またこの章では、最近話題の「ホワイトすぎる職場を辞めていく若手」というテーマにも触れている。厳しいフィードバックがない、成果を出していないのに評価されるなど、成長への意欲に応えないブラックなゆるさにも、明白な評価基準という仕組みの欠如が関係しているという指摘には納得だ。
組織で働くことは何か? ということに立ち返らせてくれる第5章「より大きなことを成す――『進行感』」も興味深い。組織で働くからこそ個人では不可能な大きなことを成し得ること。組織が前へ前へと進んでいく醍醐味を実感し、その一員であるという誇りを持てること。組織で働き成長することが、個人の人生を豊かにする方法のひとつであると、深く理解できる。
本書には、組織に所属せずに働く人にも響く言葉が多い。たとえば、組織で働く人にとっては行動の基準となる企業理念が重要だ。依頼された仕事を受けるか、受けないかを決める時に「この仕事で何を成し遂げたいのか」という理念に立ち返らないとどこかで躓いてしまうという指摘は、どんな仕事をしていても当てはまる。チームで働く喜びも、組織に所属していなくても、誰かと一緒に仕事をしている人なら感じたことはあるだろう。どのような働き方をしていても、働く軸や、仕事上の人間関係にはクールな「仕組み化」が重要だと、本書は教えてくれる。
人の上に立つ人は部下との距離感を保つ、成長したい人をベースに人材を比較する仕組みをしっかり作るなど、一見、冷たいと受け取られそうな仕組み化の提言も多い。しかし本書を読めば、仕事に真摯に取り組む人にとっては、明確な仕組みがない場所にいるほうが残酷だとわかる。組織で生きがいを手にするための助言に溢れた、人間の血の通った温かい1冊だ。
文=川辺美希