妻を虐待していた妻の父に引き裂かれ、理不尽に離婚――30代男性の経験が個人の問題では片付けられない理由

恋愛・結婚

公開日:2023/7/31

こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚
こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』(稲田豊史/清談社Publico)

 病める時も健やかなる時も愛することを誓い合い、私たちは夫婦になる。だが、いざ結婚生活が始まってみると、キャパオーバーな問題にぶち当たり、夫婦でいつづけることの意味を考える日もあるだろう。

 ひとりの人間の人生をどう背負い、どこまで愛し抜くことができるか。結婚は、そう問いかける制度でもあると思う。

こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』(稲田豊史/清談社Publico)は、そうした難題と向き合い、離婚を選択した人々の経験談をまとめたルポルタージュだ。本書はウェブメディア「女子SPA!」で大好評となり、書籍化された『ぼくたちの離婚』(KADOKAWA)の第2弾。全14人が、壮絶な離婚劇を明かしている。

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父親に妻を連れていかれて…30代男性が経験した“理不尽な離婚譚”

 本シリーズでは、元夫婦の一方にしか話を聞いていない。語りの真偽をジャッジするより、当事者が離婚をどう受け止め、整理していったのかに重きを置いているからだ。

 離婚は当事者同士の相性や価値観の違いによるものだと思われやすいが、本作に触れると、毒親の呪縛や不妊問題など、思いもしなかった問題によって“こわされた夫婦”がこの世には数多くいることに気づかされる。

 フリーランス編集者・小林徹さん(仮名/36)は、8歳上の兄と3歳下でダウン症の弟を持つ。母親は、夫の仕事の関係で共に海外へ行き、ダウン症の子が産まれたことを自身の親戚から責められ、離婚。

 やがて別の人と再婚するも、毎日激しく夫婦喧嘩。小林さんは両親を仲裁する、心理的ヤングケアラーだった。

 そんな彼が興味を持ったのは、人の心。一浪して東大で心理学や精神医学を学んだ後、出版社に就職。出版スクールの懇親会で妻となる初美さんと出会う。

 初美さんは父親からの虐待によって極度の男性恐怖症となり、双極性障害も患っていたが、外界に怯えながらもなんとか生き抜こうと努力していた。

 2人は惹かれ合い、出会って間もなく入籍。初美さんはコールセンターで働きつつ、モラハラ気質の男性編集長がいる出版社で無茶なスケジュールでの執筆をこなし、それらのストレスから小林さんを殴ったり、首を絞めたりすることがあった。

 しかし、小林さんが根気強く向き合い、支え続けたことで、初美さんが暴れる回数は減り、自分の状態を直視して治療に奮闘し始めたという。

 ところが、初美さんの父親が、実家の近くに住めと頻繁に連絡してきたことで、初美さんは再び不安定に。小林さん同席のもと、父親と会い、親子の縁を切ろうと試みたが、失敗。この一件を機に、父親は直接接触してくるようになり、ついには強引に初美さんを実家へ連れ戻した。

 数日後、初美さんは両親の目を盗んで逃げかえってきたが、再び父親に連れ去られ、夫のモラハラで精神異常をきたしたことにされ、精神科病院へ入れられてしまう。

 小林さんいわく、初美さんは入院中、担当医や看護師から毎日のように夫からモラハラを受けていたと言い聞かされ、それを信じるように。その後、モラハラ専門弁護士を名乗る人物と繋がり、離婚裁判を起こした。

 自身の心理的ヤングケアラーの過去があったからこそ、人の心を学び、初美さんを献身的に支え続けた小林さん。彼のエピソードからは苦悩以上に妻への深い愛がうかがえ、抗えない力によって離婚が成立してしまったことに胸が痛んだ。

 こうした離婚譚は痛ましいエピソードとして片付けられやすいが、社会の在り方を考えるきっかけとして捉えていきたい。

 虐待被害者へのサポートが十分ではないこの社会で、初美さんのように生きづらさの乗り越え方に苦しんだり、幸せになることを妨害されたりして夫婦関係が破綻してしまった人は、きっと少なくない。社会の構造が離婚を促進することがないよう、さまざまな苦しみに打ちのめされる人に救いの手が差し伸べられるシステムが整ってほしい。

 感情むき出しで人間くさい、14人の離婚譚。あなたの胸には、どう響くだろうか。

文=古川諭香