『ハリーポッター』に出てきた悲鳴で生命を奪う人面植物。巨鳥・鬼・幽霊など世界の幻想動物を、色とりどりの絵で楽しむ図説本
公開日:2023/7/22
空想上の生物を描いた『図説世界の神獣・幻想動物』(ボリア・サックス:著、大間知知子:訳/原書房)が発売された。この本は、世界中で創造された幻想動物がどのように生まれ信じられていたのか、どんな種類がいるのかを楽しめる1冊である。ユニコーンは存在しない! などという固定観念は排していただき、頭を空っぽにして読んでもらいたい。
“一角獣の狩り、殺害、復活を描く連作タペストリーの最後の1枚”
幻想動物はすべて実在である!?
本書では、5章「実在の動物はすべて幻想である」と、6章「幻想動物はすべて実在である」というあまりに挑戦的なテーマを掲げて、幻想動物を多方面から論じている。幻想動物を発生させた人間の心の発達は、同時に狩猟の発達にも影響があった? インターネットの発展で高度な情報の共有が可能になった現代でさえ、まだ発見されていないビッグフットを求めて協会が設立され、調査員が派遣されているのはなぜか? など、人間と、実在動物・幻想動物との歴史を眺めれば、世界の見え方が変わるかもしれない。是非、自身の目で確認してみてほしい。
では、そうして発生した幻想動物たちはどんな姿をしているのか。本書の魅力的な幻想動物のイラストを見て、どのような過程で発生したのか想像力を大いに働かせてみるのはいかがだろうか。
象を鷲掴みにする鳥、絞首台の下にしか生えない人面植物など、ビジュアルで楽しむ空想動物
“「フライングヘッド」アメリカ民俗学局年報(1880~81年)より。山の高所で暮らし、人間を食べる。この絵はオノンダーガ族の伝説を描いたもので、昔、フライングヘッドがひとりの女をこっそり眺めていたとき、彼女がドングリを焼いて食べたのを見て、怪物は彼女が燃える石炭を飲み込んだと思い、恐れをなして逃げたという。”
“「スペインで捕獲された海の怪物に関する1739年のニュース」、18世紀半ばのロシアの大衆版画。これは近世に海で捕獲されたと伝えられる数多くの男女のマーメイドのうちの1匹である。”
“『アラビアンナイト』の挿絵、1924年。このロック鳥はワシ、タカ、フクロウの特徴をあわせ持っている。13世紀末に書かれた(中略)百科事典によれば、ロック鳥は「トビがネズミを運ぶのと同じくらい易々と」象を運ぶと書かれている。”
“葛飾北斎、『百物語 さらやしき』、1830年。これはお菊という女中の幽霊である。言い伝えによれば、お菊は主人から言い寄られ、それを拒絶したために殺されて井戸に投げ込まれた。”
“マンドレイク、別名「マンドラゴラ」の素描、ドイツ、18世紀。人間のように見えるこの植物は、土から生えているときは静かだが、引き抜かれると恐ろしい悲鳴を上げる。”
“マンドレイクは処刑された犯罪者の精液と汗と血液から生まれるため、絞首台の下にしか生えないと伝えられている。”
似たような植物が『ハリーポッター』に出てきたことを覚えている人も多いだろうが、同様に、この植物の鳴き声を聞けば麻痺するか死んでしまうらしい。本書では、現実的にこれを収穫する方法まで記載されている。
実際に見ていないと書けないような詳細なイラストに、実体験を思わせる補足文章。幻想と言うには、あまりにリアルである。
人間を幻想に陥らせた、クジラは「魚」じゃない事件
幻想動物の姿を見て「こんな生物が存在するわけないだろう」と思った人もいるかもしれない。しかし、「魚」だと信じ込んでいたクジラが、生物学の発展によって「魚」ではないことがわかったといういわば「信じ込んでいた知識」と「実際の生物」にズレが生じてしまった時、人々は幻想に陥りやすくなり、マーメイドの目撃が増加したと書かれている。
つまり、我々は限られた経験からなる固定観念や、一般的に事実とされているフィルターを通して世界を見ているに過ぎないのかもしれない。
この本は、あなたから生物や人間に対する凝り固まった固定観念を取り去り、これまで見えていたのとは異なる世界を見せてくれるだろう。
文=奥井雄義