「SNSで注目されたい!」承認欲求とどう付き合っていくべきか、”SNSと自分”の関係を見つめ直す【書評】
更新日:2023/7/25
ツイッター、インスタグラム、フェイスブック…いまやSNSは我々の生活からは切っても切れないツールとなっている。なかには単なるツール(道具)ではなく、アカウント自体がもうひとつの自分と感じている人もいるだろう。世間の話題や流行の収集、創作物の発表、同じ趣味を持つ人たちと繋がったり、または悩みや不満を吐き出す場所にしたりと、様々な使われ方をしているのがSNSである。そしてSNSはアカウントを作成しなければ使用することができないが、このアカウントを作成する際にもっとも悩むのがプロフィールを書くことである。否が応でもSNSの世界で自分が何者かを見つめ直し、個性と人となりを他者に示さなければならない。
そんなSNSのプロフィール作成で苦労したり悩んでしまったりした人に読んでほしいのが、戸谷洋志『SNSの哲学 リアルとオンラインのあいだ』(創元社)だ。
本書は、SNSが仮想世界や非現実のネット上の世界ではなく、すでにリアルと地続きである世界となった今、「SNSを使っている自身が何者なのか」「SNSに息苦しさを感じるあなたは、いったい何者なのか?」と問いかける哲学的な本である。
ひとたびSNSに入り込むと、自身が他者から関心を持たれている存在かどうかが気になりだす。その気持ちは自分の投稿にファボ(=「いいね」)がつくことで満たされ、他人に関心をもたれたと嬉しくなる。「他者が自分を注目に値する存在だと認めてくれている」と感じられると、自分が承認された感覚になる。この状態を求める気持ちを「承認欲求」と呼ぶ。この承認欲求を満たすために、つまりファボ欲しさに本来の自分とはかけ離れた、演出された自分の投稿としてエスカレートしていく。また承認とはこちらが強制するのではなく、相手が自発的に、自らの意志で行ってくれなければ意味がない。すなわち欲求が満たされるかどうかは他者の意志に委ねられているという。これがSNS上の承認欲求の特徴のひとつ「他者への依存」である。そして承認されることを求め続けるため、常に自分に対して「不安」が付き纏い、さらに承認を得るために自己を演出していくことで、自分が何者であるかを見失ってしまう。本書はこのようなSNSの「他者からの承認」に対してどのような態度を取るべきか、ドイツの哲学者のフリードリヒ・ヘーゲルの「相互承認」を例に、承認欲求を捨てるのではなく、ワンランク上の承認欲求を目指すことを提案している。
そのほか、炎上や口論、誹謗中傷が起こる理由、クソリプがなぜ不快なのか、視野が狭くなる危険性をはらむアルゴリズムなど、SNSの気になる事柄について平易な文章でわかりやすく解説する。そしてSNSでの連帯と政治について書かれた5章の「SNSで人は連帯できるのか?」は、政治との関わりが一般的となった公的な空間としてのSNSについても深く考えるきっかけを与えてくれる。本書は自分という「個」から、政治と連帯といった「公」まで、SNSと「私」を見つめ直す一冊である。
文=すずきたけし