冤罪で捕まった魔法使いが刑事とともに真犯人を追う!『真夜中のオカルト公務員』作者が描くバディミステリー!
公開日:2023/7/28
何もしていないのに、ある日突然「犯罪者」として捕まってしまう。絶対にあってはならない冤罪だが、ごく稀に起こってしまうのが現実だ。ましてやそれが、愛している自分の家族を殺した、なんていう濡れ衣だったら――。
『魔法使いの犯罪捜査』(たもつ葉子/KADOKAWA)は、殺された伯爵家・ハートマン一家で唯一生き残った次男のユージーン・ハートマンと、3年前にユージーンをその事件の犯人として殺人罪で捕らえた刑事のケヴィンが、真犯人を捕らえるべく奔走する物語。作者・たもつ葉子氏は、2019年春のアニメ化、2020年の舞台化などで話題となった『真夜中のオカルト公務員』(KADOKAWA)の原作者。最新作となる本作も、ミステリーとファンタジーが入り混じる、引き込まれ度の高い作品となっている。
物語は刑務所に収監されているユージーンがケヴィンに面会を希望するところから始まる。呼ばれた理由も分からないまま刑務所へ向かうと、不思議な状況が目に入ってきた。ユージーンは、囚人をさらに罰するための独房区画に収監されていたのだが、彼はそこで悠々自適に暮らしていたのだ。
部屋にはふかふかのベッドのほか、本、ワイン、ピザやアイスクリームまで揃っている。それらの入手経路は不明で、看守たちも気味悪がって近づくことすら嫌がる始末だ。
そんなユージーンの状況に心底呆れたケヴィンだが、ユージーンは自分が刑務所を出たらあることに協力してほしい、と求める。それは、3年前の事件の真犯人を探してほしい、というものだった。ユージーンは、ケヴィンが逮捕に関わったとある事件について予言的発言をし、それを的中させて彼に実力を認めさせる。そして理解できないケヴィンの目の前でさらに魔法を使い、自分は魔法使いであると不可解なことを言い出す――。
作中でも、魔法や魔法使いの存在はファンタジーとされている。そんな中で突然「魔法」という言葉を聞かされたケヴィンは、当然彼の言葉を突っぱねる。だがその後、ユージーンは裏で手を回して自力で無罪を勝ち取り、60年あった刑期から解放される。ここからふたりは、魔法が使えない警察ではたどり着けない、ハートマン一家を殺した真犯人を捜すこととなる。
実は、ハートマン家は代々密かに“魔法が使える魔石”を受け継いでいる特別な家系だった。3年前の一家殺人事件にはこの魔石が絡んでいる。ケヴィンはそんな信じがたい現実を突きつけられ、最初は受け入れられずにいた。しかし、ユージーンのあまりに現実離れした行動を目の当たりにし、少しずつ彼の力を受け入れていく。
一方ユージーンは、魔法を扱える力は持つものの、刑事ではない一般人だ。そんな彼を、ケヴィンが刑事としての腕や人脈を使って補っていく。ケヴィンの刑事としての実力は本物で、ユージーンが魔法を使っても入手できなかった手掛かりを手に入れてみせる。
こうしてふたりは、互いに足りない部分を補い合いながら真実へと迫っていくのだが、この絶妙なバランスが作品の魅力を一層引き立たせている。
ちなみに、ユージーンの捜査の相方にケヴィンが選ばれたことにも大きな理由がある。ケヴィンは、とある事情から魔法が効かない体質なのだ。2巻では、ハートマン一家の魔石の秘密、そして事件に繋がる重大な事実がどんどん深掘りされていく。ハートマン一家を殺した真犯人は誰なのか、何が目的なのか――。2巻ラストでは、その片鱗も暴かれる。
本作は2023年7月25日に1巻・2巻が同時発売されたばかりだが、次々と繰り出される密度高めの展開に続きが気になって仕方がない。ハートマン一家殺人事件の全貌と真相を、そして物語の行方を最後まで見届けたい。
文=月乃雫