『姥捨山』あらすじ紹介。人が人を切り捨てなければいけない世界。理不尽な社会のルールを変えた親子の物語
公開日:2023/8/11
高齢の親が安心して暮らせる介護施設や老人ホームに入居させるのは、今どきそう珍しくない話です。しかしそういった仕組みがなかった時代には、一部で「姥捨て」という恐ろしい風習があったとされているのをご存じでしょうか?
本稿でご紹介する楠山正雄版『姥捨山』は、そんな風習を題材とした、ある親子にまつわる昔話です。史実に基づく話かどうかは定かではありませんが、自分が息子と、あるいは母親と似た境遇に立たされたときどう行動するか、想像しながら読んでみるのもよいでしょう。
<第24回に続く>
『姥捨山』の作品解説
『姥捨山』は、貧困や飢饉などによる棄老(口減らし)を題材とした昔話です。親が子を思いやる気持ちに心打たれ、姥捨てを思いとどまる「枝折り型」と、老人の知恵が無理難題を解決し、姥捨てが廃止される「難題型」と呼ばれる2種類の筋書きが存在します。
本稿でご紹介する楠山正雄版は、両者の複合となっているのが特徴です。また、姥捨ての風習に由来する地名・伝承は各地に残っていますが、本作は信濃国(長野県)が舞台です。
『姥捨山』の主な登場人物
息子:百姓。今年で70歳になる母と二人暮らし。
母親:姥捨てに遭ってなお、息子のことを思いやる心の持ち主。
殿様:老人を毛嫌いしており、70歳以上の老人を島流しにする制度を作った。
『姥捨山』のあらすじ
むかし、信濃国(長野県)に老人嫌いの殿様がいました。老人は汚らしいばかりで国のために何の役にも立たないと考え、70歳以上の老人を島流しにしてしまいました。
信濃国の更科というところに、ある親子が暮らしていました。息子は老母がいつ島流しになるかと気が気でなく、畑仕事も手につきません。無慈悲な役人に連行されるよりいっそ自分で、と決心した息子は、母を十五夜のお月見と偽って連れ出し、山へとおぶって行きます。
道中、道端の枝を折る理由を尋ねる息子でしたが、母は黙っているばかり。山奥まで連れてきた事情を涙ながらに打ち明ける息子に、母は「すべてわかっている、早く帰って身体に気をつけて暮らしなさい」と諭します。帰り道、自分が迷わぬよう母が印をつけてくれたのだと気付いた息子は、耐えかねて母を連れ戻し、地下室を掘って隠居させることにしました。
しばらく経ったある日、信濃の殿様のもとへ、隣国から「灰で縄を作ってみせよ。でないと攻め滅ぼす」という手紙が届きます。戦争になっては勝ち目がないので、殿様は国中に触れ回りましたが、誰も作り方を知りません。母に「塩を塗って焼けば崩れない」と教えてもらった息子は、灰の縄をこしらえて持参し、驚く殿様からたんまり報奨金をもらいました。
しかし、隣の国はまだ諦めません。曲がりくねった小さな穴の空いた玉を送り付け「絹糸を通してみよ」、そっくりな2頭の牝馬を引き立て「親子を見分けよ」と難題を次々繰り出します。そのたびに息子は老母の知恵を借り、「蟻に糸をくくり、穴の出口に蜂蜜を塗って通せばよい」「2頭の間に草を置く。先に子に食べさせ、自分は残りを食べるのが親心」と解決してみせました。
殿様は百姓の知恵に大変驚き、何でも望みを叶えると言います。事情を話し、母の命乞いをする息子に、殿様も年寄りの知恵を見直し、島流しを廃止。隣の国もついに侵攻を諦め、人々は喜ぶのでした。
『姥捨山』の教訓・感想
お年寄りは、さまざまな経験をしてきた分、若い人が思いつかないような知識を持っていることも多いですよね。『姥捨山』に出てくる老いた母親は、山奥に来たときに「すべてわかっている、早く帰って身体に気をつけて暮らしなさい」という優しい言葉をかけました。結果として、息子は母親を捨てきれませんでした。親が子を思うのが親心ならば、子が親を思うのが子心というものです。この心の大切さを教えてくれる昔話です。