小西詠斗主演で映画化『尾かしら付き。』しっぽが生えた男の子から差別について考えさせられる青春恋愛マンガ
公開日:2023/8/15
“人と違う”ということはどんなことであれ、悩みの種になりがちです。なぜならそれが原因で他者から否定されたり、排除されたりするから。そしてそれは単に物理的に支障が出るからというだけでなく、「誰かが自分を受け入れてくれている、必要とされている」と感じることは生きていく上でものすごく必要なことなのに、それを感じにくくなるからです。そんな差別というテーマに正面から向き合いながら、思春期の恋愛を温かな筆致で描くマンガが『尾かしら付き。』(佐原ミズ/コアミックス)。『マイガール』などで知られるマンガ家・佐原ミズ氏の作品です。
主人公の樋山那智は運動部で毎日頑張っているのに、自分だけ日焼けしづらいことに悩む中学生。ある日とあるきっかけで同級生・宇津見にしっぽが生えていることを知ってしまいます。その場では「怖い」と感じ逃げ出してしまった那智ですが、自分自身の日に焼けないというコンプレックスと照らし合わせ、よく知ろうともせず拒絶してしまったことを反省。翌日宇津美に謝って、改めてしっぽを見せてもらうことに。すると今度はしっぽが可愛く見え、「私宇津美君のしっぽ好き」と伝えます。
宇津美はこれまでにもしっぽのことが周囲に知られるたびに騒ぎになり、住む場所を変えて暮らしていました。初めてしっぽを肯定してくれた那智に宇津美は驚き、次第に心を許すように。その後交際を始めたふたりですが、那智が以前告白を断った同級生・木野にしっぽのことがバレてしまい、大騒ぎになってしまいます。そして宇津美は那智に何も告げず、行方をくらましてしまうのです。
しっぽが原因で差別されてきた宇津美ですが、しっぽは感染するものではないし、誰かに迷惑をかけるものでもありません。ではなぜ周囲は宇津美を差別するのか? 作中で那智の姉・志穂は「日本人はひとつの場所に永住してコミュニティを構築してきた民族だから、周囲との違いに恐怖を感じたり変化をなかなか受け入れられなかったりする」と説明しています。理解しようとすれば意外と簡単に受け入れられるかもしれないのに、条件反射的に恐怖を感じて拒絶してしまう。本作はそんな差別の本質を突き、自分はこれまで同じことをしていないだろうかと、思わず我が身を省みてしまいます。
一方、那智と宇津美の交際に反対する那智の母や、しっぽが遺伝する可能性を考えると将来子どもを持つことに前向きになれない宇津美など、綺麗事だけでは済まされない差別の側面が描かれるのも、この作品の魅力です。
また本作で苦しむのは宇津美だけではありません。宇津美に何も言わずに去られてしまった那智も、ショックで人格や行動まで変化。さらに那智と志穂は異母姉妹なのですが、志穂は実の母親に捨てられた過去を持ちます。それらで描かれるのは、冒頭にも書いたように「誰かが自分を受け入れてくれる、必要とされている」と感じることの大切さ。彼女たちのトラウマが癒されていく過程はついこちらまで涙してしまうほど心温まるものです。
本作の映画は8月18日(金)から公開予定。映画を観る前に、ぜひ予習してみてください!
文=原智香