趣味はお菓子作りや植物の世話…ピュアな強面男子を応援したくなる青春グラフィティ『寿々木君のていねいな生活』
更新日:2023/8/4
『キラメキ☆銀河町商店街』や『ただいまのうた』、『シェアハウス金平糖北千住』(いずれも白泉社)など、あたたかな作風で人と人との絆を描く手腕に定評のあるふじもとゆうき氏。第1巻が発売された『寿々木君のていねいな生活』(白泉社)は、見た目だけでは判断できない人間の多面的な姿を描く、キュートかつハートフルな青春グラフィティだ。
寿々木薫はガタイよし、つり目に三白眼な15歳。だがその強面な外見に反して、趣味はお菓子作りや植物の世話、ハウスキーピングに季節の手仕事と、ていねいな生活を愛する心優しい少年だった。ルックスゆえに誤解を受け、理不尽な因縁をつけられがちな寿々木は高校入学初日、通学電車で酔っ払いに絡まれてしまう。そんな彼を助け、酔っ払いを華麗な投げ技で撃退したのが、小柄な美少年・春名新だった。
寿々木は手に擦り傷を負った春名を手当てし、その後同じクラスだと判明した二人はこれをきっかけに親しくなっていく。中学時代に自分の趣味を「気持ち悪い」とからかわれて以来、寿々木は自分に自信が持てず、友達も出来ぬまま孤独な日々を過ごしていた。だが困っている人をスマートに助け、「見た目通りじゃないの オレの自慢」と笑う春名との出会いに刺激され、勇気を出して少しずつ世界を広げていこうとする。当初は寿々木を怖がっていたクラスメイトたちも彼の優しさに気づき、彼らしさに興味を抱きながら、仲間として受け入れていくのだった――。
ピュアすぎる強面男子の寿々木薫と、小柄でかわいい柔道男子の春名新。それぞれに外見とのギャップがある二人が出会って友情を育んでいく様は、『寿々木君のていねいな生活』最大の読みどころだ。助けてもらったお礼をしようといそいそとマフィンを焼き(この時の凶悪顔がまた笑いを誘う)、リボンでかわいらしくラッピングして手渡そうとする姿や、年の離れた妹の珠子をかわいがるよき兄ぶりなど、寿々木のチャーミングさを引き出す描写の数々はなんとも微笑ましい。
一方で、自分の行動が気持ち悪がられていないかとうろたえる姿は切なく、中学時代に負ったトラウマの根深さを実感させる。そして春名は、外見ゆえに周囲から誤解されがちな寿々木の優しさに真っ先に気づき、自分に自信を持てと背中を押してあげるのだ。春名のフォローに助けられつつ、寿々木は高校に居場所を見つけ、クラスメイトとも距離を縮めていく。とりわけ忘れがたいのは、寿々木の中学時代の因縁の相手を前にした春名の姿だ。彼が口にする「お前 もうひとりじゃないからな よくがんばったな!」というセリフには強く心を掴まれる。
本作では寿々木の恋にも光が当てられ、初恋にとまどい挙動不審になる等身大の男子高校生の姿が描かれる。相手は妹が通う保育園の担任・猪熊桜子だが、よき保育士である彼女も仕事を離れるとお酒とゲームが大好きという、寿々木の目には映っていない予想外の一面を持っているのだ。
まだまだ、外見の印象から勝手なイメージをあてがわれてしまいがちな世の中にあって、本作に描かれるコミュニケーションはそんなステレオタイプをときほぐしてくれる。これからも寿々木君のスクールライフと恋を応援していきたい。
文=嵯峨景子