レオナルド・ディカプリオが演じた26カ国の警察から追われた詐欺師。偽札、詐欺師、インチキ医学など、人を騙した偽物の歴史『世界の偽物大全』

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/17

ビジュアル 世界の偽物大全
ビジュアル 世界の偽物大全』(ブライアン・インズ:著、クリス・マクナブ:著/日経ナショナルジオグラフィック)

 偽札、偽切手、大胆な詐欺師、インチキ科学者にエセ医者……。技術の発達の裏には、それに乗じる企み深い偽造者が存在していた。

 世界の偽造と、それを見分けてきた技術者たちの攻防の歴史を『ビジュアル 世界の偽物大全』(ブライアン・インズ:著、クリス・マクナブ:著/日経ナショナルジオグラフィック)で振り返ってみるのはいかがだろうか?

 ここでは3人の偽造者をピックアップして紹介したい。

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精巧な偽札のために電気コードをちぎった、チャールズ・ブラックという男

 1928年生まれの英国人チャールズ・ブラックという男がいる。彼はあまりに精巧すぎる偽札を作ったことで、開発に莫大な予算と歳月を投じた偽札検知装置を、一夜にして時代遅れにしてしまったという。

 米国の50ドル札と20ドル札には、偽造対策として細い赤と青の繊維が織り込まれており、これが偽造の障壁になっていた。ブラックは試行錯誤の末、まず電気コードの被覆を細かく刻み、明るい緑色に印刷した紙の上に撒き写真に撮ることにした。次にそれを縮小することで、赤と青の繊維の感じをうまく再現させたのだ。さらに、新札の滑らかな手触りを再現するために、偽札をグリセリン液に浸してからヒーターで乾燥するという手段を閃いている。

 ブラックは最終的に、ジャガイモの箱の下から8万5000ドル相当の偽札が発見されるなどして逮捕されたのだが、その経緯や、仮釈放後のビジネスの話なども興味深いので、是非読んで確認してほしい。

ビジュアル 世界の偽物大全 P.35

各種ポンド紙幣を手荷物英国の偽造師チャールズ・ブラック

レオナルド・ディカプリオが演じた最も大胆な詐欺師、フランク・W・アバグネイル

“父親のクレジットカードを悪用して小遣い稼ぎをしたのが、犯罪歴の始まりだった。”

 映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」というレオナルド・ディカプリオが大胆不敵な詐欺師、フランク・アバグネイルを演じた映画を知っている人は多いと思う。その堂々たる手口と、周囲の人間が思うままに騙される様子には、犯罪ながらも清々しさを覚えてしまうことだろう。彼がなりすました身分は、パイロット、小児科医、司法事務所の職員、大学職員……と、多く存在したが、どうやら一番気に入っていたのはパイロットらしい。彼は16歳で家を出て以降、折に触れて、偽りのパイロットの身分を使い、不正に給与を得ながら、アメリカ中を飛び回っている。その手口は、彼の肝っ玉の大きい人柄をよく表している。時に堂々と機長にインタビューをしながら情報を得たり、スチュワーデス志望の容姿端麗な女子学生たちを引き連れてパイロットとしての自然さを装ったりした。

ビジュアル 世界の偽物大全 P.165

映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で20歳のフランク・アバグネイルを演じたレオナルド・ディカプリオ

 映画では、パイロットを演じる姿が印象的だ。そのほかにも、小児科医を装ったりしながらも、何年かに一回は休息を求めて、詐称を休む時期があるところも遊び疲れた子どものようで興味深い。今では、銀行取引のセキュリティーに関する経験と知識を買われ、FBIの経済事犯捜査部に協力したり、FBIアカデミーで教鞭を執ったりして活躍している。

「150年生きられる」と謳われた驚きの健康法“大地浴”

ビジュアル 世界の偽物大全 P.239

治療と若返りの方法として“大地浴”を紹介した。

 ジェームズ・グラハムが紹介した大地浴が面白い。大地浴では必要な栄養素をすべて摂取することができ、150年生きることができるとの触れ込みだった。挿絵を見るに、大地浴とは、丸裸になって地中に胸の下あたりまでを埋めることだったようだ。

 上のとんでもない健康法のように、白衣を着た医者と名乗る人間の言葉に騙される人は案外多い。実際、コロナウイルスのパンデミックの際に、間違った医学情報に踊らされた人もいただろう。

 他にも、巨人の骨を偽造した男、50年間男性医師のふりをした女性、自分と生年月日が近く早死にした子どもの出生証明書を不正に使いパスポートを作る手口、自由の女神を売った男、エッフェル塔を二度も売った男……など、人間がいかに人間を騙すことに余念がないか、またいかに騙されやすいかを痛感する一冊だった。偽物の歴史を見れば、人間がどれほど偽造に情熱を注ぎ、人々を欺いてきたかがわかる。だからこそ、真偽のあやふやな情報が氾濫する現代にこそ読むべき本であると確信している。この思いは偽物ではない。

文=奥井雄義