読むたびに元気をもらえるアイドルサバイバルストーリー!『NEW GAME!』の得能正太郎最新作コミック『IDOL×IDOL STORY!』

マンガ

公開日:2023/8/4

IDOL×IDOL STORY!
IDOL×IDOL STORY!』(得能正太郎/芳文社)

 昔、アイドルを“追っかけ”ていたことがある。CDを購入し、ライブは地方公演にも参戦していた。今で言えば“推し”ていたのだ。その頃の自分は元気がなかったように思う。仕事もプライベートもうまくいっていなかった。そんなときに知った彼女たちに、最初は映像や配信でただただ浸っていたが、すぐに曲も欲しくなりライブにも行きたくなった。そのためには稼がなければいけない、働かなくてはならないと自分を奮い立たせた。

 アイドルは人を元気にしてくれる存在なのだ。

 そんなアイドルを描いたマンガが『NEW GAME!』(芳文社)の作者・得能正太郎氏の最新作『IDOL×IDOL STORY!』(芳文社)だ。物語は、元アイドル渚美海(なぎさみみ)と現役アイドル七種衣吹(ななくさいぶき)が出会うところから始まる。彼女たちはお互いが“推し”であったことを知り、やがて一緒にガールズグループオーディションへ参加することになる。

 本作はアイドルでの成功を目指す彼女たちの可愛さや心情が生き生きと描かれているのが魅力で、本稿のライターは今毎日のように読み返して元気をもらっている(特に今落ち込んでいるわけではないが)。

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互いに“推し”合う元アイドルと現役アイドルがサバイバルオーディションに参加!

 ミミこと渚美海は、女性アイドルグループ「シュガースマイル」のライブ会場で声援を送っていた。彼女の推しはイブキこと七種衣吹。彼女は17歳にして、歌唱とダンススキル、そして可愛さは圧倒的で、何よりも人を引きつけるオーラと輝きを放っていた。

 ライブ後のチェキ会で意気揚々とイブキの列に並んだミミだが、イブキに「ミミ助?」と声を掛けられ動揺する。実はミミは「ステラ」というグループに所属していた元アイドルだ。グループの解散後は普通の学生として就職活動やアルバイトをし、アイドルライブに通う毎日を過ごしていたのだ。

 その後、ミミはたまたま住所が近かったイブキと偶然出会い、いろいろと話す仲になる。なんとイブキはアイドルになる前に「ステラ」のミミを推し、憧れていたのだという。信じられないでいるミミに、イブキは「シュガースマイル」を辞め、今話題のアイドルオーディションを受けること、そしてまだアイドルに未練があるのならば、ふたりで一緒にそのオーディションでのデビューを目指してみないか、と告げる。

 ミミは今回“も”諦めようとする。彼女は引退しており、22歳というアイドルとしては決して若くない年齢だ。何より売れなかったアイドル時代、イブキのようなカリスマ的な輝きがない自分に失望していたことを思い起こしていた。

 そんなミミは帰宅すると妹に「悩んでいる顔はアイドル時代以来だね。あの頃のお姉ちゃんはそれでも前を向いていた。それが伝わって元気をもらっていた人がいた」と言われ、はっとする。

 誰もが一生懸命がんばっているアイドルを応援したい。元気をもらえるからだ。ミミは、やりきれなかったかもしれないが、妹にもイブキにもそのがんばりは伝わっていたのだ。

 ミミは再び前を向き、覚悟を決めた。アイドルとして輝けるかはわからない。しかし気がついた。歌うことが好きで、ずっと歌っていたいのだと。そしてイブキの手をとり、ともにアイドルオーディション「スーパースターシッププロジェクト」へエントリーを決めた。「スーパースターシップ」は世界的アーティスト・音星アリアが主催するガールズグループオーディションだ。一次審査と二次審査を突破したミミとイブキは、三次審査である合宿制のサバイバルオーディションに進む。そこでふたりを含む16人がライバルとしてしのぎを削るのである。はたして彼女たちの運命は……。

とにかく可愛い“彼女たち”のがんばりが元気をくれる!

 本格的なオーディションが幕を開けると、ミミとイブキと他の参加者たちが意地と思いをぶつけ合う。激アツなパフォーマンスバトル、彼女たちの思いや成長、そしてがんばりがシンプルながら美しい作画で描かれていく。登場人物は全員可愛い。特に彼女たちの表情がすべてのコマで本当に可愛いので、注目してほしい。

 個人的には没入感がかなり高い。まるで現実のアイドルオーディション番組のように、うまくいけば嬉しくなるし、うまくいかなければ変な汗をかく感覚になる。彼女たちのバックグラウンドがていねいに語られるたびに、誰を推すかを本気で考えてしまう。

 2巻のあとがきマンガで、得能氏は現実のライブに行くほどのアイドル好きだと描かれていた。確かに、登場人物たちの可愛さはもちろん、“アイドルを目指すこと”の解像度の高さも強く感じられる。

 思い入れたっぷりに描かれている作品から伝わるものは確かにある。何度となく読み返しているが読後は元気になれる。アイドルの応援と同じだ。

 作中、オーディションの主催者・アリアの言葉。

誰よりもがんばっていて成長する女の子達の姿はさいッッッこうッじゃないですか!!

 そう、アイドルは最高だ。本作を読んでいて改めて思う。完璧で究極のスター・アイドルはもちろん、等身大で足掻いているアイドルも同じく最高なのだ。

 最高な彼女たちをここまで描かれてしまったら、ハマらないわけにはいかない。特にアイドルファンならばなおのことだ。この気持ちが伝われば幸いである。

文=古林恭