「自由研究の真髄に触れられるような一冊」ジャンプが“本気で作った”子ども向けの学習マンガ雑誌『勉タメジャンプ2023 SUMMER』はどうやって生まれた?
更新日:2023/8/15
あの「週刊少年ジャンプ」(集英社)が“本気で作った”子供向けの学習マンガ雑誌「勉タメジャンプ」。待望の第2号となる「勉タメジャンプ 2023 SUMMER」が7月13日に発売された。今回は夏休みの宿題の定番である「自由研究」を総力特集。特別付録には「結晶実験キット」がついてくるなど、そろそろ自由研究に取り掛かろうとしている全国の子供たち、それを見守る親御さんにはうってつけの一冊となっている。そこで発売を記念して、「週刊少年ジャンプ」の副編集長で「勉タメジャンプ」の担当編集である本田佑行さんにインタビューを実施。誕生の経緯や気になる制作の裏側、そして従来の学習マンガとの違いに迫る。
取材・文=ちゃんめい 撮影=金澤正平
ないなら自分で作りたい! 「勉タメジャンプ」誕生秘話
――今年の4月に第1号「勉タメジャンプ 2023 SPRING」が、そして7月に第2号となる「勉タメジャンプ 2023 SUMMER」が発売されました。そもそも、なぜ「勉タメジャンプ」を作ろうと思ったのでしょうか。
本田佑行(以下、本田):僕の子供が全然本を読まなくって。それで、少しでも本に興味を持ってくれたらと思い、まずは学習マンガから勧めてみようと書店へ行ったんです。書店にはたくさんの学習マンガが並んでいたのですが、逆にありすぎて「どれを選べばいいのか?」とすごく悩みました。雑誌があれば……と思ったら、意外にも学習マンガ雑誌はなかった。ないなら自分で作りたいと思ったのがきっかけです。
――「勉タメジャンプ」を企画したとき、社内での反応はいかがでしたか?
本田:「週刊少年ジャンプ」の編集長が、低年齢読者に向けた「最強ジャンプ」の創刊に携わっていた方なので、新しいことはもちろん、子供向けの企画はすごく喜んでくれるというか、応援してくれる編集部なんですよ。だから、「勉タメジャンプ」の企画書を持っていったら「超いいね!」と(笑)。作家さんにご賛同いただけるかどうかの懸念点はありましたが、企画自体はものすごく歓迎されました。
ジャンプらしさとは“魅力的なキャラクター”がいること
――雑誌名の“勉タメ”とは、勉強とエンターテインメントを組み合わせた言葉。さらにジャンプの名が入っていることから、「週刊少年ジャンプ」が本気で作ったという覚悟を感じます。本誌において意識した“ジャンプらしさ”とはどんなところでしょうか?
本田:やっぱり面白いマンガであることです。面白いマンガとは何か? といったら、もちろん色々な考え方があると思いますが、「週刊少年ジャンプ」がとりわけ大切にしてきたのが“魅力的なキャラクター”がいるということ。
魅力的なキャラクターがいて、面白い動きをして……その繋がりが面白いストーリーになっていく。つまりキャラクター優先であるところが「週刊少年ジャンプ」の作り方なので、それは「勉タメジャンプ」でも大切にしています。
――キャラクターが魅力的だからか、ただ学習するのではなく、まずマンガとしてしっかり楽しめる作品が多い点が非常に画期的だと感じました。
本田:「勉タメジャンプ」では、学習内容よりもまずはキャラクターに興味を持ってもらって、そのキャラが提案して、そこから広がる題材が学習への興味に繋がっていく……そういった動線を意識して作りました。
例えば、古代エジプトがテーマの『セベクちゃんは噛みつきたい』(田村隆平)なら、まずセベクちゃんという面白いキャラクターがいて、それが実はエジプトの神様で、そこから古代エジプトを巡る冒険が始まっていく。あくまでもキャラクターが先なんです。
監修は面白さを作るためにある、『Dr.STONE』で培ったノウハウ
――本田さんは『Dr.STONE』の初代担当編集でいらっしゃいますが、「勉タメジャンプ」を読んで、改めて『Dr.STONE』がもたらした功績は大きいのではないかと思いました。本作を経験した子供たちは物語が学習に繋がっていく流れに慣れているといいますか……。
本田:まさに、「勉タメジャンプ」は『Dr.STONE』で学んだ考え方で作っている雑誌でもあります。そもそも『Dr.STONE』とは、科学を勉強させる学習マンガではなくて、やっぱり主人公の千空がかっこいいマンガなんです。そんな彼のかっこよさを作っているのは、科学という考え方や、科学への情熱……つまり、あくまでも“千空のかっこよさ”が中心になっている作品です。そして、細かな科学の描写については監修のくられさんに相談するのが『Dr.STONE』の作り方でした。
――くられさんは「勉タメジャンプ 2023 SUMMER」の「闇の自由研究」特集にも登場されていますね。
本田:くられさんには、正しさを伝えるだけでなく、面白さを作る段階から色々と相談に乗っていただきました。この経験とノウハウを活かせば、既存の学習マンガにはない視点で、新しい学習マンガ雑誌ができるかもしれないと感じました。
すべては作家の興味関心から始まる
――『Dr.STONE』で作画を担当されたBoichi先生は、「勉タメジャンプ」で『人体レスキュー探検隊』という作品を手掛けていらっしゃいますね。
本田:新しく学習マンガ雑誌を作るのですが……と相談したら、快く承諾してくださいました。ただ、作家さんは自分自身が面白いと感じた題材でなければ語れないと思うので、こちらから題材を指定するのではなく「子供の頃に興味のあったことはありますか? 今好きなものはありますか?」と、作家さんの興味のある分野を深掘りするところから始めました。
――作家さんの興味のある分野が作品になっていると思うと、ファンにとってはまた違った楽しみ方ができますね。
本田:それこそ、先ほど話にあがった『セベクちゃんは噛みつきたい』は、田村隆平先生が実は昔からエジプトや建築がお好きだというエピソードから生まれた作品です。ただ、Boichi先生に関しては「本田さんなら僕の好きなもの知ってますよね? それならなんでも大丈夫ですよ」と心強い返事をくださって。それならBoichi先生の絵で人体が見たい! と思い切ってリクエストしてみたら「人体興味あるので描けます!」と……そういった経緯で『人体レスキュー探検隊』が誕生しました。
――学習マンガ雑誌なのに、学習内容よりも作家さんの興味関心や得意分野が優先で作られていたとは驚きです。
本田:やっぱり面白いマンガを作ることが優先なので、まず初めに作家さんと打ち合わせをする際もどんな内容、展開にしたら面白いのか? という話だけをするんです。面白そうな流れができた時に、果たしてこれは正しいのか、他にもっと良い方法がないのか、という段階で監修の方にアドバイスをいただく……だから、『Dr.STONE』と全く同じ作り方ですね。
アンケートから感じる読者の熱量
――4月に発売された第1号「勉タメジャンプ 2023 SPRING」では、どんな反響がありましたか? 第2号を制作するにあたって参考にした意見などがありましたら教えてください。
本田:第1号では読者アンケートの回答率がとても高くて驚きました。しかも、びっしりとコメントが書き込まれていたので、すごく熱心に読んでくださる読者が多いのだと実感しましたね。なかでも「もっと読みたい」「分量がほしい」というお声が多かったので、第2号は1号よりも厚くしました。
あとは「付録を充実させてほしい」というお声もありまして。もともと第2号では付録に力を入れる予定ではあったのですが、お客様の声があったからこそ今回の「結晶実験キット」のような付録が実現できたと思います。
――アンケート結果を大切にされるところも非常にジャンプらしい一面ですよね。
本田:やっぱりジャンプの命はお客様とのコミュニケーション。みなさんご存じの通り、アンケートによって作品の今後が決まっていく……さすがに「勉タメジャンプ」はまだ「週刊少年ジャンプ」ほどのスピード感はありませんが、お客様が読んで面白いものを揃えていくことが僕たちの仕事だと思っています。ですので、アンケートとしっかり向き合って、次号を作っていく姿勢は「勉タメジャンプ」でも大切にしたいです。
「自由研究」の考え方、次に繋がる動線を
――第2号のテーマは「自由研究」ですが、夏休みの定番の宿題にして、いつの時代も頭を悩ませる課題です。本誌を制作する上でも相当な苦労があったのではと思うのですが……。
本田:「自由研究」ってすごく曖昧なものなので、どのようにしてその骨格を掴んでいくのか? というところはかなり考えましたね。世の中にはすでにたくさんの自由研究本があって僕自身もすごく好きなのですが、いざ子供と一緒にやってみると、ひとつ完成しておしまいだったり……もちろん、それも自由研究のひとつの形ではありますが、個人的には次につながるような動線が作れたら良いなと思ったんです。
例えば、「勉タメジャンプ」に掲載されている自由研究をひとつひとつこなして終わるのではなく、読み終わった後に「もしかしたらあれもこれも自由研究になるんじゃないかな?」と。そういった自由研究の考え方というか、本誌から派生していくような特集にしたいという思いが根底にあったので、それを形にしていくまでに試行錯誤しました。
――確かに冒頭では、まず自由研究とは何たるかがしっかりと説明されていましたね。作中では古代エジプトから人体、そしてYouTubeまで色々な自由研究の入り口が用意されていますが、その中でも特におすすめの自由研究を教えてください。
本田:やっぱり「結晶実験」ですね。実は、昨年の夏に「勉タメジャンプ」とは一切関係なく、子供と一緒にやって一番楽しかった実験なんです。ただ実験を紹介するだけではなく『バケル』(大須賀玄)という作品とも連動しているので、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。
――私も実際にやってみたのですが、童心にかえったかの如く大興奮してしまいました。『バケル』みたいに本当にできた! って(笑)。
本田:素晴らしい自由研究の付録がついている本や雑誌って他にもたくさんあると思いますが、やっぱり「勉タメジャンプ」の付録の良いところは作品と繋がっているところなんですよね。マンガを読んで、面白いと思ったものが実際にできる……その動線をしっかりと用意しました。これは、僕たちだからできる付録の形だと思っています。
今冬に発売! 第3号のテーマは「ボードゲーム」
――最後に、これから「勉タメジャンプ 2023 SUMMER」を読まれる方に向けてメッセージをお願いします。
本田:この一冊で自由研究が完成するのはもちろん、何より考え方が養われると思います。そして、連載・読み切りマンガあり、記事もあり、付録もある! 面白い雑誌として読んでいただける上に、今年だけではなく、来年も再来年もずっと自由研究を楽しめる……そんな自由研究の真髄に触れられるような一冊になっていると思いますので、ぜひお気軽に手に取っていただけたら嬉しいです。
――ちなみに、今冬に発売予定の第3号のテーマは「ボードゲーム」だと予告されていましたね。
本田:そうなんです。ゲーム制作会社さんとの共同開発で、オリジナルのボードゲームを作っている最中です。僕自身、ボードゲームが大好きなのですが、プレイするだけでもう美しい! 気持ち良い! というあの感激をなんとか子供向けのボードゲームで再現できたらと思っているんです。
ボードゲームには素敵なイラストも必要ですし、ぜひ作家さん方にもご協力いただこうと。今わくわくしながら制作している最中なので、ぜひ楽しみに待っていてください。