「投稿が遅れるでしょ!」インフルエンサーママの裏側は、子どもへの撮影強要に夫婦別居…SNSを巡る物語『インフルエンサーのママを告発します』

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/12

インフルエンサーのママを告発します
インフルエンサーのママを告発します』(ジェ・ソンウン:著、渡辺奈緒子:訳/晶文社)

「一般人でもSNSでお金を稼げる時代」と呼ばれて久しい昨今。“インフルエンサー”と呼ばれる人々のなかには、名の知れた芸能人以上の収入を手にしている人もいる。

 稼ぎ方には様々な手段があるが、InstagramやYouTubeで私生活の一端を公開し、着ている服や使っているモノを紹介するのも一つの手段。そうした生き方は「私生活を切り売りしている」とも言われ、批判的に論じる人もいる。ただし、自分の私生活をどこまで公開するかは個人の自由の範疇だろう。

 一方で、「自分だけでなく子供も顔出しして、SNSやYouTubeに積極的に露出させている」となれば、そこには別の問題も絡んでくる。『インフルエンサーのママを告発します』(ジェ・ソンウン:著、渡辺奈緒子:訳/晶文社)は、そんな子供を題材とした韓国の児童文学作家の物語だ。

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着たくない服を着せられ、通学コーデの撮影を強要

 主人公はダルムという名前の女の子。ママは20万人のフォロワーを誇るインフルエンサーだ。

 ダルムは朝7時に「とうこうが遅れるでしょう!」と叩き起こされ、着たくもないクロップド丈(へそ出し)のTシャツや、キツネの毛皮を着せられ、1週間分の通学コーデの撮影をさせられている。

 学校では毎朝「今日のファッションもすごくない?」「歩く広告とうね」とチヤホヤされる。同級生から勝手に写真を撮られてイヤな気分になることもあるが、母親からは「つねにお上品に、おりこうにふるまうこと」を命じられている。そしてSNS上では幸せいっぱいの家族生活を公開しているが、父と母は別居している……。

 という彼女の境遇はかなり極端なものだが、SNS上で子供を積極的に露出させることは、程度の差はあれ子供につらい思いをさせる可能性がある。

 SNS上では「素敵な生活」「素敵な自分」を演じさせられているが、実態は違う部分も多い……という状態は、大人のインフルエンサーでも精神的にキツイものがあるだろう。それが子供の場合はどんな影響があるのか?ということは、本書を読みながら考えさせられることだ。

 そして本書のタイトルに「告発する」という言葉が使われているように、こうした親の行為は、子供の各種の権利の侵害にあたる可能性もある。

 児童文学作家が著した本書は、子供でも問題なく読める物語になっているが、親が子供の写真を勝手にSNSにアップすることは、倫理の問題だけではなく「権利の問題」でもある……と大人が学べる1冊にもなっている。

文=古澤誠一郎