2020年4月から保険適用も。実例とともに解説する、誰もが陥る可能性のあるギャンブル依存の実態

暮らし

公開日:2023/8/4

ギャンブル依存 日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか
ギャンブル依存 日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか』(染谷一/平凡社)

 競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブル。パチンコやパチスロ、宝くじといった遊戯。それらを趣味に持つ人たちは少なくない。ただ何事も限度があり、ハマりすぎて「依存症」に苦しみ、挙げ句の果てには「借金」地獄に陥る人もいる。

 書籍『ギャンブル依存 日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか』(染谷一/平凡社)は、長年にわたり医療の現場を取材してきた著者・染谷一氏が、日本にはびこる「ギャンブル依存」の実態へ迫った一冊だ。「自業自得」「意志が弱い」と、当事者たちを「切り捨てていいのか」と、染谷氏は強く訴えかける。

祭りの縁日で「勝負好き」な気質が育まれた日本人

 各種依存症の治療に取り組む 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターによると、ギャンブル依存とは「その人の人生に大きな損害が生じるにもかかわらず、ギャンブルを続けたいという衝動が抑えられない病態」を示すという。

 本書は、祭りの縁日で見られる「射的や金魚すくい、ヨーヨー釣りなど」の文化もあり、そうした「子ども時代からの原体験の積み重ね」が、日本人の「勝負好き」な気質を作り出したと主張する。

 そして現在では、「人気タレントのさわやかな笑顔と熱い惹句(注:客を惹きつける言葉)」を浴びせてくるCMが日常的に放映される土壌もあり、日常での一発逆転を願う人たちが「さらに深い依存へと誘惑される機会」が数多く作られつつある。

 国としてもギャンブル依存への対策は急務で、2018年10月には「ギャンブル等依存症対策基本法」が施行され、2020年4月からは「ギャンブル依存症」の保険適用が認められた。本人や家族の生活を守るのが主な目的だが、けっして他人事ではなく、誰もがたやすくギャンブル依存に陥る危険性もはらむ。

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借金返済のため、大手企業勤務の肩書きを捨てた男性

 本書ではパチスロや競艇、果ては意外と身近にある違法な「闇カジノ」などのギャンブルにハマり、人生の転落を味わった人びとの顛末を記録している。

 借金総額400万円を抱えていた、福島県の40代男性のBさんもその1人だった。かつては、地元で「名の知られた大手企業」に勤めていながら、自己都合での退職金も目当てにしなければならないほど、目の前の借金苦にあえいでいた。

 当時、対応した司法書士はギャンブルなどの借金を返済するため、収入や待遇面で恵まれている勤務先をいきなり辞めてしまうケースも少なくないと、本書で述べている。

 Bさんが依存していたのは、一部で“胴元が儲かる仕組みになっている”とささやかれる「宝くじ」だった。実際、宝くじ公式サイトを見ると令和3年(2021年)の販売実績額8133億円のうち、当せん金にあてられたのは46.2%に及ぶ3758億円だった。

 この46.2%の数字は「還元率」とも呼ばれるが、 “半数近く”が当せんするようにも見える。しかし、その多くは「一握りにも満たない高額当せん者がごっそりと持っていく仕組み」になっていると、本書は指摘する。

 ギャンブルには一攫千金の夢がある。日常を変えるべく、そのチャンスに賭けるのも人生の選択肢ではある。ただ、入れ込みすぎると生活が破綻しかねず、ひいては、周囲すらも不幸に巻き込みうると本書で思い知らされた。

文=カネコシュウヘイ