26年前のなかよし別冊付録『ロマンスの小箱』を振り返る。花屋で、土手で、窓辺で……心がキュンキュンするティーンの恋物語

マンガ

公開日:2023/8/19

 黄色い表紙に、手をつなぎ走る少年少女の写真……。30代の皆さん、覚えているでしょうか。1997年、なかよし3月号の別冊ふろく『ロマンスの小箱』を。「漫画なのに表紙が写真なんて珍しいな」「しかもなんかブレてるな」と、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

 丸々一冊“ロマンス”をテーマにした別冊で、長編読み切り4篇、短編2篇、ギャグ3篇を収録。ティーンの淡い恋物語でしたが、当時小学生だった筆者にはどの話もものすごく大人に思えました。繰り返し読んだせいか、いまだにはっきりと物語を覚えています。

「覚えてる! 読みたいけど手元にない! どんな内容だったっけ!?」と思ったあなたのために、傑作と名高い長編4篇をご紹介しましょう。

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『スノードロップ〜あなたへの想い〜』秋元奈美

 トップバッターを飾るのは、なかよしで連載していた『ミラクル☆ガールズ』の秋元奈美先生による長編。筆者はこの作品でスノードロップという花を知りました。

 高校入試の下見の日。主人公の彩菜は、雪の中で小さな白い花を描く男子生徒を見かけます。彼の名は水城真。天才高校生画家として有名だった水城と入学後に再会した彩菜。しかし、水城が描いていた絵を誤って落としてしまい、そのお詫びとして水城の実家の花屋でバイトをすることに。さりげない優しさをみせてくれる水城に、彩菜は段々と惹かれていって……というストーリー。二人が出会ってから想いが通じ合うまでの1年間を描いた作品です。花・雪・絵という3つのモチーフが作品を彩ります。

 物語中盤、水城の美大受験をめぐって二人は喧嘩。しかしそれがきっかけで、彩菜は水城への想いを自覚します。そして「言葉ではうまくいえないけど」「せめて ホントの気持ちだけは わかって――」と、水城と出会ったときに見たスノードロップの鉢植えを店の前に置くのです。去り際の彩菜の後ろ姿がなんとも切なく、印象的でした。

 想いが通じ合った二人がお互いを見つめ合うカットは、今見てもキュン!! 彩菜と水城のこれからの恋物語を予感させる最高のラストシーンです。

『土手道をきみと』笹野鳥生

 高校生の繭子は、クラスメイトの男子、松本と毎日一緒に帰ります。二人のお気に入りは夕日がきれいな土手道。仲の良さをからかわれても繭子は気にしません。なぜなら松本は“友達”だから。そんな松本から突然告白された繭子は、どう答えていいかわからずとっさに「いちばん大切な友達」と言ってしまいます。松本はそのまま転校してしまい二人は離れ離れに。ひとり土手道にやってきた繭子は、そこでようやく気づきます。ただ土手道が好きだったんじゃない。松本と二人で歩く土手道だから好きだったということに。

 するとそこへ松本が。学校をサボって遠い町から繭子に会いに来たのです。ようやく両思いになった二人は手をつないで土手道を歩くのでした。

 友達だと思っていた男の子から突然告白されて戸惑う主人公という、ごくありふれたストーリーなのに、なぜか心に残る作品。個人的に『ロマンスの小箱』のなかでは一番好きです。繊細な絵柄や、土手道の雰囲気、友達以上恋人未満の絶妙な空気感など、大人になった今も読み返したくなります。

『同じ季節(とき)の中で』倉谷鈴句

 平凡な中学校生活を終えた道代は、春休みのある日、同窓生の市村大樹・通称イチダイとばったり出くわします。女子生徒たちの憧れで校内でも目立つ存在だったイチダイに、なぜか一日デートに誘われる道代。

 自分とは違う世界に住んでいると思っていたイチダイでしたが、じつは中学の3年間、二人はずっと同じ窓の外の景色を見ていたことが発覚。「わたしたちは三年間出会うことはなかったけれど」「同じことを感じていたんだ……」

 急速にイチダイに惹かれていく道代でしたが、新しい高校生活にはイチダイはいません。それでも「きょうわたしは中学三年間の中でいちばん楽しかったんじゃない!」とイチダイのもとへ行こうとする道代。すると、ドアの外にはイチダイが。「いつもまっすぐな道代ちゃんのこと見てたよ」「ずっと好きだったんだ」なんと、イチダイはずっと道代に片思いしていたのでした。

 イチダイがすごく独特なキャラクターとビジュアルで、強烈に覚えています。当時はそんなに共感できませんでしたが、今読むと「もしかしたら、イケメン男子からずっと片思いされてたかもしれない」という、幻想を抱かせてくれる作品だということに気づきました。多分ないけど、可能性はゼロじゃない。

『こんぺい糖のアルバム』輪上薫

 当時のなかよしでも珍しいレトロな絵柄。『ロマンスの小箱』のラストを飾るにふさわしい、恋物語です。

 中学を卒業したばかりの「れんげ」と「かもめ」。学校の帰り道にしている路地裏にはこんぺい糖の製造工場があり、いつも甘い香りでいっぱい。その道で1年前、れんげは突然かもめに抱きしめられます。誰にも言えない秘密なのは、二人がいとこ同士だから。そのため気持ちは同じはずなのに、お互い「好き」のひとことが言い出せません。

 そんなとき、ほかの女の子から告白されたかもめに対し、ヤキモチを焼いたれんげはつい、心にもないことを言ってかもめを傷つけます。高校に進学した二人は何事もなかったかのように生活を送りますが、想いが溢れたれんげは、ついにかもめに告白。ようやく想いが通じ合った二人は再びこんぺい糖の甘い香りに包まれるのでした。

「いとこ同士って恋できないの……!?」と思ったけれど、なんとなく親にも聞けなかった記憶。しばらくしてから結婚できると知ってホッとしました。れんげちゃんとかもめくんも、幸せになってるといいなぁ。

 4つの長編ロマンス、思い出していただけたでしょうか。

 でもここまでロマンチックな気持ちにさせておきながら、最後はギャグ4コマで締めるあたり、編集部もわかってますね! あなたの好きな作品はどれですか?

文=中村未来