「今とは違う熱さと軌跡を残したかった」キャリア10年以上のライター・大貫真之介が語る、アイドルシーンのあの頃と今 【インタビュー】
公開日:2023/8/9
アイドル戦国時代も今や昔。数多くのグループが誕生した2010年代を経て、ステージを卒業していったメンバーを、僕らアイドルファンはどれほど多く見送ってきたのだろう。卒業のステージは儚くも、美しい。そして、その日を境にして、彼女たちは“セカンドキャリア”を歩き始める。
ライターとして十数年にわたり数々のメンバーと正面から向き合い、インタビューの現場で“生の声”を拾い続けてきた大貫真之介さんの著書『私がグループアイドルだった時 僕の取材ノート2010-2020』(双葉社)は、今まさに“セカンドキャリア”を歩く元メンバーたちの証言を集めた1冊だ。
本書では、元SKE48の秦佐和子さん、元さくら学院の武藤彩未さん、元欅坂46の今泉佑唯さんら、グループアイドルのステージを卒業した13人のインタビューを収録。さらに、大貫さん自身が現役時代の彼女たちを取材していた当時の記録を振り返っており、アイドル戦国時代から現在までを共に歩いてきたファンにとっても、記憶が呼び覚まされる一冊となっている。
ステージで輝くアイドルにきわめて近い立場から、この十数年のアイドルシーンをどのように見てきたのか。大貫さんに聞いた。
(取材・文=カネコシュウヘイ)
グループアイドル出身者たちの印象深い言葉たち
――本書に収録しているインタビューは、ニュースサイト「文春オンライン」での連載がベースとなっています。なぜ、グループ卒業後のメンバーにスポットを当てたのでしょうか?
大貫真之介さん(以下、大貫):元々、アイドル戦国時代に頑張っていた方々で、卒業した方を「定期的に取材して、連載したい」と雑誌に企画を出したら、編集担当者から「Webでやりますか?」と返答が来て、はじめました。アイドル戦国時代を誰かがまとめたり、現在の状況から振り返ったりすると、(芸能事務所の)ディアステージやWACKが中心になるのかなと思って。それとは異なる、今では解散しているグループも含めて、グループアイドルシーンが今とは違う熱さがあった時期の軌跡を残したかったんですよ。ただ、卒業後となると出演してくれる方とそうでない方がいて、僕の提出した候補者への取材依頼はなかなか大変だったと担当編集者からは聞きました。
――インタビューが核にある一方、現役時代のメンバーを取材した当時の記憶も詳細に振り返っています。
大貫:当初、書くつもりはなかったんですよ。著書をまとめるにあたって担当編集者から「書いてほしい」と言われたんですけど、僕自身の記憶力に自信がないですし、執筆時はここ十数年の記憶や感情を必死に思い出しながら、昔のツイートや過去に書いた記事のファイルも掘り起こして。ライターの立場だとドラマチックな出来事もなければ、相手がいる以上は書けないこともあるので苦労しました。
――13人のグループアイドル出身者をインタビューした中で、印象に残った発言を教えてください。
大貫:みなさん印象的でしたけど、例えば、メンバー時代を振り返る秦佐和子さん(SKE48/2009~2013年在籍)の「メディアはキャラクターを求めているけど、ファンの方は人間を求めていた」という発言はアイドル的なスタンスですし、だからこそ、自分のアイデンティティを失われずにグループアイドルを続けられたんだろうなと。メディアからは一方的に見られるけど、ファンの方々は分かってくれるという趣旨の発言だと感じて、納得しました。
また、僕から「アイドル周辺には怪しい大人も多いじゃないですか」と尋ねた質問に対する、遠藤舞さん(アイドリング!!!/2006~2014年在籍)による「か弱くて反論してこない少女に上から圧をかけるような人だっている」という答えも、印象的でしたね。現在は、ボイストレーナーとして現役アイドルを指導して、活動についてのアドバイスもしていらっしゃるので、遠藤さんの経験が技術面以外でも役に立っているのだろうと思います。
槙田紗子さん(PASSPO☆/2009~2015年在籍)は取材した2018年11月時点では、アイドル界自体の縮小ムードを感じながらも「絶対にまたブームはくるので。5年後くらいかな」と予見していて。今まさに、取材当時から5年後を目前にしていますが、2021年には槙田さん自身がアイドルグループ・Hey!Mommy!のプロデュースをはじめて、振り付け師として、超ときめき♡宣伝部やFRUITS ZIPPERをバズらせています。かつて表舞台にいた方が裏方として新たな風をもたらしているのは、いい循環だと思っています。
ライターとして、アイドル界のスターが生まれていく過程を見たい
――肩書きはあくまでもライター。評論家、アイドルライターを名乗る意思は?
大貫:いえ、ありません。昔、2011年頃だったと思いますが、吉田豪さんにインタビューする機会があって。その際、当時流行っていた動画配信サイトの「USTREAM」で積極的に発信しているライターの方がいたので、「肩書きを付けて、発信して名前を売ったほうがいいんですかね?」と質問したんです。でも、豪さんから「いやいや。ライターとしてコツコツやった方がいいですよ」と聞いて納得したので、アイドルライターとも評論家とも名乗らず、ずっとやってきました。
――2000年代後半からグループアイドルの取材に関わり始めたそうですね。
大貫:はい。それ以前には、グラビアアイドルや懐かしのアイドルを取材していました。当時から取材するにあたっての準備は基本的に変わらず、グラビアアイドルや懐かしのアイドルの記事は800文字ほどでボリュームも少なかったんですけど「大宅壮一文庫」で関連記事を漁り、入念に下調べをして。実際のインタビューではまず、こちらの思う「言ってほしいこと」を聞いて、そこから先を深掘りすることを意識していたんです。その方法をグループアイドルでも生かすようにしてきました。ただ、基本的にグループアイドルは「大宅壮一文庫」に資料が少ないので日々の活動を追い続けて、個人のブログ、ライブや過去インタビューでの発言をアーカイブ化して、取材の参考にしています。
――ここ数年の変化として、著書では「アイドルがグループを卒業するように、仕事仲間たちもアイドルを卒業していた」と寂しさも募らせていました。
大貫:そうですね。記憶の限りでは一度目の熱狂が、ももいろクローバーZで、繋がりがある仕事関係者はみんな好きだったんですよ。その後、二度目の熱狂が個人的には乃木坂46のアンダーライブでしたね。「乃木坂46 アンダーライブ全国ツアー2017 ~近畿・四国シリーズ~」(2017年12月)であったり、当時は多くの編集者も地方まで足を運んでいました。
――変わりゆくアイドルシーンの過程では、何を思っていましたか?
大貫:僕自身、じつは2017年以降に結成されたグループをあまり知らないと思っているんですよ。追っていた中堅グループが、2017年頃から相次いで解散、あるいはオリジナルメンバーが全員卒業してしまったので。オリコン1位を取ったグループもいたし、日本武道館でライブをしたグループもいました。それでも結局、世間一般では売れなかったとされているんですよ。取材したメンバーで「個人でブレイクする」と思わせてくれるほどスター性のある子たちもいましたけど、芸能界の仕組みとして難しかったんだろうと。ライブハウスからテレビなどへ羽ばたく、国民的スターが誕生するのをもっと多く見たかった気持ちはあります。
――アイドルシーンに向けた喜怒哀楽もありながら、著書では「僕はまだアイドルを取材することを卒業できそうにない」と述べていました。ライターとして、アイドルへのインタビューのやりがいをどう感じていますか?
大貫:スターが生まれていく過程を見たい気持ちは変わらないんです。観る側の嗜好が多様化し、多くのアイドルがひしめく現在ではなかなか難しいとは思いますが、スターがひとり生まれたら業界がもっと盛り上がる気がします。僕自身は、相手がスターになる、ならないにかかわらず、メンバーの成長を定点で追って、じっくりと話を聞いて、信頼関係を築いて、を繰り返していきたい。それが、この仕事ならではの醍醐味だと思うので。その延長線上として、卒業後のメンバーに「会いたい」と思ったのも著書にあるインタビューを企画した理由でしたし、僕はライターとしての役割を今後もまっとうしていきたいと思います。
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