シジュウカラの鳴き声には「文法」が存在? 動物たちの知られざる“会話”のコミュニケーション術
公開日:2023/8/21
動物たちも「言語」を持つとは驚きだ。私たち人間と同じように、彼らもまた会話を交わしながら「社会」を形成しているのである。
書籍『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)は、17年以上にわたりシジュウカラの「鳴き声の意味や役割」を調べ続ける“鳥になった研究者”鈴木俊貴さんと、青年時代から「ゴリラの群れ」に身を投じて彼らの生態を研究してきた“ゴリラになった研究者”山極寿一さんの対談で構成。「おしゃべりな動物たち」の生態を学べる。
■言葉だけでなく「文法」も使い分けるシジュウカラ
“鳥になった研究者”鈴木さんと“ゴリラになった研究者”山極さんは共に、動物たちの住む環境に飛び込んで生態を調べ続けてきた研究者だ。長年の研究成果が貴重であるのは、想像にたやすい。
例えば、鈴木さんが研究するシジュウカラは天敵を見つけると「警戒の鳴き声」を発する。しかし、天敵の種類に応じて鳴き声を使い分けているという。
ヘビの場合は「ジャージャー」、タカなら「ヒヒヒ」と鳴くが、鈴木さんいわく、これは「天敵によって対処法が違う」ため。「タカが来たら隠れればいいけど、(ヘビの)アオダイショウが木を登ってきているのにじっとしていたら食べられてしまう」と、きちんと理解しているそうだ。
さらに興味深いのは、シジュウカラの「言葉」にも「文法」があるという研究結果である。天敵と会ったとき、シジュウカラは「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴く。これは「警戒して・集まれ!」という意味だと考えられるが、鈴木さんはデータを編集して、順番を逆にした「ヂヂヂヂ・ピーツピ」という音声を作り、スピーカーでシジュウカラに聴かせる実験を行った。
すると、前者の鳴き声では仲間と共に天敵を追い払おうとしたシジュウカラが、後者では「そんなに警戒しないし、スピーカーにもほとんど近付いてこなかった」そうだ。シジュウカラの鳴き声には「警戒が先、集まれが後」のルールがある。しかし、ルールを破ると意味が通じなくなるのは、彼らが「語順」を理解していることを示しており、すなわち「文法」が存在することを証明している。
■26年ぶりに再会したゴリラに「グッ、グッフーム」とあいさつ
ゴリラが持つ「言葉の力」も長年、研究が続けられてきた。1971年生まれのメスのローランドゴリラ「ココ」の逸話は有名だ。
幼い頃から心理学者に「アメリカの手話」を教わっていた「ココ」は、「2000を超える単語」を使いこなしていたとされている。水が飲みたいときは「ココ、水」とアピールするなど、単語をつなぎ合わせて「短い文章」も作れたという。
“ゴリラになった研究者”山極さんも、身をもってゴリラが持つ「言葉の力」を体感した1人だ。かつて、アフリカのルワンダで2年にわたりゴリラと暮らしたとき、若いオスゴリラの「タイタス」と抱き合いながら眠るほど仲を深めた。その後、ルワンダの内戦激化により離れ離れになってしまったが、26年後にようやくの再会を果たしたそうだ。
しかし、群れのリーダーに成長した「タイタス」に、ゴリラ語で「グッフーム」とあいさつしても最初はそっけない態度を取られてしまった。山極さんは「ショックでしたね。2年間も付き合ったオレのことを忘れたのか」と、当時の寂しさを振り返る。
それでもあきらめきれず、2日後にもう一度「タイタス」のもとへ行ったところ「すぐに向こうから寄ってきてくれた」と吐露。「グッ、グッフーム」とあいさつする山極さんに対して、「タイタス」も「グッ、グッフーム」と返し、出会った当時の記憶が蘇ったのか表情が「急に子どもっぽくなって、ついには地面に仰向けに寝転がった」という。
本書のテーマは「おしゃべりな動物たち」の生態にとどまらず、ひいては、現代社会の「言語の進化と未来」にまで話題が及ぶ。SNSやAIの進歩により、言語化された過去のデータがより重視される現代では「未来志向なのに過去にとらわれている」と山極さんは指摘し、鈴木さんは「動物の言語研究」が「僕たち自身を知ろうとする試み」ではないかと提示する。自然界で生きる動物たちから、私たちが学べることは多い。
文=カネコシュウヘイ