身近に潜む法律の落とし穴や悪人の手口を事例で紹介! 初版から半世紀以上続くロングセラー、最新改訂版
公開日:2023/8/26
法律がいつでも善人の味方になるとは限らない。法律の規定が世間の常識とかけ離れていることは残念ながら少なくなく、ときとして悪人はそれを利用する。気づいた時には時すでに遅し。「いつの間にか法的トラブルに巻き込まれてしまった」というケースは意外と身近にあるのだ。
そんなトラブルを招きやすい法律の規定を紹介するのが、『法律の抜け穴全集 改訂5版』(法律書編集部/自由国民社)。自身の生活と法律をつなぐ「ウラ六法」として、初版刊行の1961年から多くの人に読まれてきたロングセラー本だ。最新の改訂5版では、新たな法改正のほか、SNS、ネット決済、成人年齢といった近年起こりうる最新の法律トラブルにも対応。自らを守るための知識がギュッと詰めこまれている。
「誹謗中傷の投稿に『いいね』を繰り返し、慰謝料を取られた話」「AIで作った偽動画を配信し、名誉毀損で訴えられた話」「新興宗教に熱中し家事や育児をかえりみない妻と離婚した話」「死亡時刻をズラして数億円の財産を受け取った女の話」……。この本では、法律が羅列されているわけではなく、どんなトラブルが起こりうるか、その事例が紹介されている。最新のトピックも多く紹介されていて面白く、読み心地はまるで短編小説のよう。いろいろな人物のいろいろな実話を読み進めているうちに、自然と法律の知識が身についていく。
たとえば、「ネットショッピングで買物をしてクーリング・オフできなかった話」で紹介されているのは、誰もが陥りやすいトラブルだ。登場するのは、「着るだけでダイエットになる」というジャージをネットショッピングで購入した専業主婦の亜矢さん。商品の効果に疑問を抱いた彼女はクーリング・オフを試みたが、業者からは「ホームページに記載の通り、返品は不可」として拒否されてしまった。ネットショッピングの場合も、実店舗での購入と同様、商品引渡しから8日間は消費者にはクーリング・オフが認められているが、業者が独自に解約ルールを決めている場合、それをホームページなどで表示していれば、そのルールが適用されてしまう(特定商取引法一五条の三第一項)。だが、この事例の場合は諦めるのはまだ早い。「着るだけでダイエットになる」という効能の表示は、著しく優良なものと消費者に誤認させるもので、誇大広告に当たるから(同法一二条)、消費相談センターなどで相談すると良いようだ。
ご近所トラブルに関する記載も、他人事では済まされない。
「水道の蛇口を閉め忘れ水浸しにした階下の住人に訴えられた話」では、都心のマンション10階の住人・雪江さんが、断水中に水道の蛇口を開けたまま寝てしまい、断水解除により洩水、9階住人の部屋を水浸しにしてしまったというトラブル。実際の判例では裁判所は「断水中に水道が締まっているかどうか確認しなかった被告住人は無責任のそしりをまぬがれない」と慰謝料も含め約1480万円の支払いをするよう階上住人に命じている(東京地裁・平成13年8月30日判決)。
単なる過失でも賠償請求が認められる漏水と異なり、失火による類焼の場合は賠償が不要となるケースもあるという。
「借地人がアパートを焼失しても類焼者に賠償しなくてよいという話」に登場するのは賃貸アパートに居住するヒトミさん。ある日、友人と映画鑑賞に出かけたものの、アイロンのスイッチを切ったかどうか記憶があいまいだった。気がかりではあったものの、映画を最後まで観終えて帰宅すると、アパートは一棟丸ごと全焼してしまっていた。その後、ヒトミさんは家主を含めアパートの住人たちから損害賠償を請求されてしまう。
誰かに迷惑をかければ損害賠償の必要が生じるのは当然のこと。しかし、借地人の失火に関しては、失火の過失の程度によって損害賠償責任が変わってくる(「失火ノ責任ニ関スル法律」明治32年、民法709条の特別法)。今回のヒトミさんの「アイロンの不始末」が「重大なる過失」ではなく、単なる普通の「過失」の程度として認められれば、家主に対しては貸借物件の損害賠償はしなければならないが、それ以外の損害、家主以外の類焼者に対しては損害賠償の義務はないのだという。
火事を起こしてしまった側としては助かる法律ではあるが、もらい火事の被害者側にとっては、漏水の場合と同じように賠償してほしいように感じてしまうが……。どうやら法律には意外にも思える規定が数多く存在するようだ。
その他にも驚かされる事例がたくさん。この本を読んでいると、悪い奴らがどうやって法律を悪用するのか、その手口が見えてくることも多い。もちろん悪用は絶対に厳禁。この本は「転ばぬ先の杖」である。悪質業者などの悪人どもの餌食にならないために、そして「いざ」という時に「そんな法律があるなんて」と焦らないためにも、知っておきたい知識が満載の1冊だ。
文=アサトーミナミ