一級建築士がタワマンの不正を暴く!? 実際の「一級建築士」が描く建築士の仕事・裏話マンガがタメになって面白い

マンガ

公開日:2023/8/25

一級建築士矩子の設計思考 (1) (ニチブンコミックス)
一級建築士矩子の設計思考 (1) (ニチブンコミックス)』(鬼ノ仁/日本文芸社)

 これまでになかったユニークな題材のコミックが、ひそかに話題となっている。理系ジャンルであり、文系ジャンルでもある。建築士の仕事を取り上げた作品だ。

 人が生きていくうえで欠かせない「衣食住」という言葉に含まれながら、住居を作る「建築」という仕事については人々にそれほど知られていない。なぜなら、おそらく難しすぎるからだ。数字や計算、工学が密集する理系ジャンルでありながら、人の生活スタイルや感情などにも寄り添う文系ジャンルでもある。『一級建築士矩子の設計思考 (1) (ニチブンコミックス)』(鬼ノ仁/日本文芸社)は、その両面を押さえつつ、「一級建築士」の実務を描いている。

 なぜ本書では、難解で専門的な「一級建築士」の仕事がみごとに描かれるのか。それは、著者が「一級建築士」「1級建築施工管理技士」の資格を有しているからだ。

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 一級建築士の資格を有する主人公・矩子(かなこ)は、勤めていた事務所を辞め、独立して事務所を構えた。この事務所はちょっと特殊で、立呑みを併設しており、事務所にふらっと寄って酒を呑みながら建築の話をすることができる。矩子は大の建築好きであり、酒呑みなのだ。

 ちょっと不器用で天然なところがある矩子は、建築(と酒)については真っすぐ純粋で情熱的。1話では立呑みに訪れたスナックのマダムが持ってきた弟の新築設計図面をパッと見て欠陥建築になることを見破ったり、別の話では、ふらっと訪れた母子から聞いたわずかな情報で彼女らの住居の図面を書いてみせたりするなど、名探偵のような能力を披露する。

 第8話では、駅前分譲タワーマンションの管理組合と不正な維持管理問題に介入する。相談者から依頼があり先述のタワーマンションを訪れた矩子は、高級マンションなのに異臭がすごいゴミ置き場を目の当たりにする。管理組合の理事長の正体と、業界準大手である管理会社「腹黒コミュニティ」との関係に気づいた矩子は、マンション総会に出席して、得意の推理から理事長の正体を明かし、問題を解決に導く。

 本書の内容は、著者の一級建築士としての知識や経験からすべてリアリティが感じられ、かつ情報量が正確、膨大で読み応えがあると評判である。かつ、建築への愛も感じられて「一級建築士」の仕事のすごさ、尊さに思いが及んでしまう。

 本記事を執筆時点で、Amazonの評価は星4.6、評価数は1287個となっており、高評価のレビューの中には「一級建築士資格の勉強にもなる」といったコメントも見られる。衣食住の「住」は、誰にとっても無関係ではない。なかなか知ることのできない建築の秘話や裏話を知ることで、住居に親しみをもち、もしかしたら生活の質を高めるきっかけにできるかもしれない。

 私は本書読了と同時に第2巻をポチってしまった。まだ続く真夏日は、涼しい部屋の中で本書にのめり込んでみるのも良さそうだ。

文=ルートつつみ(@root223