日雇い労働者からソウル大学首席合格者に――勉強することの理由を教えてくれる、韓国で70万部以上売れた書籍が日本上陸!
公開日:2023/8/20
韓国で1996年に出版されて以来70万部以上が発行され、「知らない人はいない」というほどまでに有名な『勉強が一番、簡単でした 読んだら誰でも勉強したくなる奇跡の物語』(チャン・スンス:著、吉川南:訳/ダイヤモンド社)が日本に上陸。小学生のときに父を亡くし、やさぐれつつも家族を支えるための日雇い労働をしながら、超名門・ソウル大学の首席合格者になるという大逆転を遂げたチャン・スンス氏自身の体験が綴られています。
身長160cm、体重52kgの小柄な体での肉体労働。絶望的な成績からスタートさせた受験勉強と、「家庭の大黒柱」という重すぎる責務の並走。その離れ業を、マルチな才能を持つ主人公ではなく、ごく平凡な主人公が自問自答しながら、一歩一歩着実に考えを深めてこなしていく様を本書では追体験できます。
タイトルの意味は「勉強って実は簡単なんです」という意味ではなく、「世の中の仕組みを知って人生の流れを変えるには、(困難も多々あるけれども)勉強が一番近道だ」ということを意味しています。
簡単だから勉強を始めたのではなく、必死に勉強しているうちに簡単になったのだ。「簡単」になった原因は、それが「面白い」からだった。面白ければ一生懸命にやるし、一生懸命やれば簡単になるものだ。
だから、勉強が嫌いな人はテストでいい点を取って大学に行きたければ、死ぬほど嫌な勉強に闇雲にしがみつくのではなく、まずは勉強に面白さを感じることが早道である。
タイトルの響きは「勉強本」ですが、本書で紹介されているストーリーには仕事(日雇い労働)のことが多く描かれています。著者はいわゆる「3K(キツい、汚い、危険)」と呼ばれるような仕事や、山のようなおしぼりをバイクで運ぶ仕事を経験していく中で、一生懸命働いても必ずしも報われるとは限らない、世の中の厳しさを体験していきます。そしてある日思い立ち、おしぼりをどっさり積んだバイクを予備校の前に停めて、「クラス編成テスト」を受けました。そこから、勉強の面白さにのめりこんでいったのです。
著者は当時を振り返って、「何に気づいたのか」をいくつか述べていますが、その内の2つ抜粋してご紹介します。
・頭は使えば使うほどよくなる
テレビで老詩人が80をすぎても創作活動が活発なことの秘訣として、「朝鮮半島の山を高い方から数百個数える」という毎朝の習慣を紹介したことに親近感を見いだしている著者の経験が語られています
・頭に「!」マークが浮かぶ瞬間を大切にすること
やさぐれてお酒を飲みまくっていた著者が、生物の教科書の中にあるホルモンの単元でアルコール分解について学び、飲んだ翌朝喉の渇きがなぜひどくなるか見出したとき。よく行き来する道にある裁判所のロゴマークであるムクゲの花びらの数が、なぜか9という中途半端な数である理由(裁判官が9名なため)が、政治経済の教科書のおかげでわかったとき、という経験が語られています
このようにご紹介すると、「ああやっぱりこの人はすごい人なんだ(自分とは違う)」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、著者がソウル大学に首席合格した電話報告の一報を工事現場のおじさんから聞いたときのスローモーションのような描写からは、自ずとにじみ出る庶民性を感じていただけるかと思います。
こんな瞬間、すました顔でひとつニヤリと笑って見せたら、どんなにカッコいいだろうか。だが、私はやはりそんな大物ではなかった。本当にうれしくてたまらず、どうにかなりそうだった。
興奮しておじさんたちと抱き合って飛び上がっていたら、ふと母のことを思い出した。こんな日に、バスを2本乗り継いで家まで帰るわけにはいかない。おじさんから1万ウォン札を1枚もらって、現場を飛び出した。
「自分はどう生きるか」という自問自答から、今話題の映画タイトルと同じく「君たちはどう生きるか」と優しく問いかけてくれる一冊です。
文=神保慶政