人間を怖がらせたい幽霊の話。人間が怖がった意外なものとは?/3分間ミステリー らせんの迷宮1①

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/23

かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー らせんの迷宮』(黒史郎/ポプラ社)第1回【全16回】

1話2~3ページの短い物語を読み、その中の”かくされた意味”を考える『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ。物語を読み終わったら想像力を巡らせ、解説ページで答え合わせをするのがこのシリーズの楽しみ方! 今回の連載ではシリーズのなかでも人気の4冊から、それぞれ4つの物語をご紹介します。やさしいものから大がかりなトリックが仕組まれたものまで、あなたは物語の真の意味にたどり着けるか?

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かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー らせんの迷宮
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー らせんの迷宮』(黒史郎/ポプラ社)

怖がらせたい

 わたしは死んでしまったようだ。

 病気なのか、事故なのか。

 自分がどうして死んでしまったのか、覚えていない。

 わたしが覚えているのは、この世に対する強い恨みだけだ。

 その恨みが、よほど強かったのだろうか。

 わたしの魂は、あの世へ行くことができず、この世にのこった。

 そう。わたしは幽霊になったのだ。

 ああ、憎い、憎いぞ。

 この世のすべての人たちが憎らしい。うらめしい。

 どうして、わたしだけ、こんな不幸な目にあわねばならないのだ。

 ──そうだ。

 せっかく、こうして幽霊になれたのだ。

 この姿で、人々を恐怖させてやろう。

 わたしを見て震えあがる、その表情と叫び声で、この恨みや憎しみも少しは晴れるかもしれない。

 誰でもいい。

 わたしのこの姿を見て、その恐ろしさに震えあがってほしい。

 

 月も星も出ていない、草木も眠る、丑三つ時。

 真っ暗な場所に立ったわたしは、人が通るのを待った。

 幽霊らしく白装束を着て、口からは血を垂らし、火の玉も二つほど連れて。

 ちゃんと足も消えているし──準備万端だ。

 おっと、幽霊らしく、両手もこうしてダラリと下げておこうか。

 ──きた、きた。

 向こうから若い男女のグループが来る。

「今日は最高だったねぇ」

「ああ、盛り上がったなあ」

「すっかり遅くなっちゃったね」

「見て見て、きれいな星が出てる」

 大学生かな。カラオケでも行った帰りだろうか。

 フン。さぞかし楽しい人生を送っているんだろうな。

 最高だと? 盛り上がっただと? ずいぶん楽しそうじゃないか。

 だが、そんな楽しい空気も、わたしが一瞬で壊してやるぞ。

 今だ!

「うらめしやぁぁぁ……、うらめしやぁぁぁ……」

 どうだ。恐ろしいだろ? 

 怯えろ。怖がれ。悲鳴をあげて逃げろ。

「え、なに?」

「きゃあ!」

「火の玉?」

「火の玉だっ……やべぇ!」

「わああ! 逃げろおおお!」

 みんな、一目散に逃げていった。

 ──はて。どういうことだ? 

 わたしより、この火の玉のほうを怖がるなんて……。

 目的は達成したが……なんだか、納得いかないぞ。

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