男が池に斧を落とすと、池から女神様が登場! でもなぜか目がトロンとしていて…/3分間ミステリー らせんの迷宮4④
公開日:2023/8/26
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー らせんの迷宮』(黒史郎/ポプラ社)第4回【全16回】
1話2~3ページの短い物語を読み、その中の”かくされた意味”を考える『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ。物語を読み終わったら想像力を巡らせ、解説ページで答え合わせをするのがこのシリーズの楽しみ方! 今回の連載ではシリーズのなかでも人気の4冊から、それぞれ4つの物語をご紹介します。やさしいものから大がかりなトリックが仕組まれたものまで、あなたは物語の真の意味にたどり着けるか?
正直者
あるところに、正直者の男がいました。
彼は働き者でもあり、この日も森へ仕事に行きました。
森の中には池があり、その近くで木を伐っていた時のことです。
「あっ、しまった!」
うっかり手をすべらせ、大切な仕事道具の斧を池に落としてしまいます。
「これは困ったぞ。どうしたらいいんだ……」
新しい斧を買うお金なんてありません。
これでは明日から仕事ができなくなってしまいます。
男が頭をかかえていると──。
池の真ん中から、美しい女神がもじもじと現れました。
「おお、女神様!」
「はい、女神です。あ、あの……どうかなさいましたか?」
「じつは、大切な仕事道具を──」
「ええ、ええ……ええ、ええ……」
「──というわけでして……ん? あの、女神様?」
「えっ、は、はい?」
「大丈夫ですか? 目がトロンとしていますが」
「あ、ごめんなさい、寝不足で。えっと、お仕事の道具が?」
「はい。大切な仕事道具の斧を、池に落としてしまったのです」
「あ、ああ、はい、あれですか。あれを落としたの、あなただったのですね」
女神は金の斧と銀の斧をサッと出しました。
「あ、あなたの落としたのは、どちらの斧でしょう? この金の斧でしょうか? それとも、こちらの銀の斧でしょうか? ていうか、どっちもいります?」
女神はニコニコと金と銀の斧を差し出します。
男は、じっと見つめました。
「女神様、間違っていたなら謝罪します。私が落としたのは、きっと……」
正直者の男は指でさしました。
うつむいた女神は頬を赤らめ、「はい」と小さくうなずきました。