皆が口をそろえて「二度目はない」というバンジージャンプ。その怖さの秘訣とは?/3分間ミステリー 3つのトリック3⑦
公開日:2023/8/29
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー 3つのトリック』(黒史郎/ポプラ社)第7回【全16回】
1話2~3ページの短い物語を読み、その中の”かくされた意味”を考える『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ。物語を読み終わったら想像力を巡らせ、解説ページで答え合わせをするのがこのシリーズの楽しみ方! 今回の連載ではシリーズのなかでも人気の4冊から、それぞれ4つの物語をご紹介します。やさしいものから大がかりなトリックが仕組まれたものまで、あなたは物語の真の意味にたどり着けるか?
バンジージャンプ
あーあ、もっとスリルのある遊びはないかなー。
おれはジェットコースターのような、絶叫系のアトラクションが大好きだ。
速ければ速いほど、高ければ高いほど、スリルがあって楽しい。
こわければこわいほど、ドキドキワクワクして面白いんだ。
でも最近はそのこわさにもなれてしまって、まったくスリルを感じないんだ。
各地の名だたる絶叫マシンに乗ってみたけれど、ダメだね。
期待しすぎちゃって、どれも肩すかし。
バンジージャンプもすすめられて何度か体験してみたけど、あれは退屈だね。
「どうしたんだよ、アツシ。うかない顔して」
「ケンタか。いやー、なんか毎日、刺激がなくって退屈でさ」
「まだそんなこと言ってるのかよ。刺激なんてないほうがいいのに……」
「なんだ、どうかしたのか?」
「ひどい目にあったんだよ……」
ケンタは先週、とてもこわいバンジージャンプを体験したという。
彼もおれと同じくらい、スリリングなアトラクションが好きだ。
そんな彼に「二度とやりたくない」と言わせるバンジージャンプがあるとは。
「ケンタがそこまで言うなんて、どれくらい高さのあるバンジーだ?」
「あれは高いとか低いとか、そういうレベルの話じゃないよ」
「じゃあ、何がそんなにこわいんだ?」
「簡単には説明できないな。オレには、行くな──としか言えない」
「いいねぇ、どこなの? 教えてよ」
「──教えるけど、悪いことは言わない、やめとけ。絶対に後悔するぞ」
バスで半日ほど揺られて、山に囲まれた村に着いた。
「ケンタの言ってたのって、本当にここでいいんだよな」
湖に架かる鉄橋に設置された、バンジージャンプ場。
高さは、そこまでじゃない。
他のバンジージャンプ場より低いくらいだ。
そこだけ見るとスリルなんて到底味わえそうもないんだが──。
気になる点がいくつかある。
鉄橋はそうとう古いのか錆びだらけで、歩くだけでギシギシと鳴る。
スタッフがみんな、じいさんとばあさんで、仕事になれていないのかミスが多い。
いちばん気になるのが、誓約書だ。
バンジージャンプをする前には決まって書かされるもので、「何かあっても自己責任」というのが一般的な内容だけれど、ここの誓約書は他とは違う。
『ここであったことは絶対に他言しないように』
これ、どういう意味だろう?
質問しようとしたら、そばにあったラジオから演歌が流れだし、じいさんばあさんたちのカラオケ大会が始まる。なんなんだ、ここは。
それからも、安全帯のハーネスを取りつける時にスタッフ同士でもめたり、つけ忘れがあったり、壊れている箇所が見つかったりと、なんだかヤバい。
ケンタが「二度とやりたくない」と言っていた理由がわかってきた。
確かに、これはこわい。
でもジェットコースターやバンジージャンプのこわさとは違う。
おれは不安になりながら、いよいよジャンプ台に立つ。
「はいはい、そんじゃ準備はいいですかいな。行きますよ、十秒前、九、八──」
カウントダウンが始まった、その時だった。
ギュイッ、ギュイッ、ギュイッ
ラジオから大きな音が聞こえてきた。
『緊急地震速報です! 強い揺れにそなえてください!』
グラリ。
橋が大きく揺れた。
かなり大きい地震だ!
鉄橋全体がグラングランと大きく揺れだし、おれは立っていられなくなる。
スタッフたちも、あちこちにしがみついて悲鳴を上げている。
揺れがもっと激しくなる。今にも橋が落ちそうだ!
「おにいさん、このままだと崩れる橋に巻き込まれる! 飛び込みなさい!」
「ええっ⁉ と、飛び込むって──」
「あああ、もうダメじゃあっ、橋が落ちるぅぅぅぅ」
スタッフのじいさんに背中を押され、おれは湖に向かってジャンプするしかなかった。
「うわああああああああ」
二度とやりたくない……というか。
こんな体験、二度は無理だよな。