皆が口をそろえて「二度目はない」というバンジージャンプ。その怖さの秘訣とは?/3分間ミステリー 3つのトリック3⑦

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/29

『バンジージャンプ』にかくされた意味

 ただでさえ不安なことだらけのバンジージャンプ場。

 その直前に、まさかの大地震。

 古くなっていた橋は、ああっ、今にも崩れ落ちそうです!

 崩落の間際、湖に向かって決死のジャンプをさせられたアツシさん。

 最後の一文を読むと、どうやらご無事だったようですが──。

 スタッフのおじいさん、おばあさんたちの安否が気遣われます。

 

 ご安心を。

 この日、この地域で地震なんて起きていません。

 これは、こういうアトラクションなのです。

 アツシさんのような、何をしてもスリルを味わえなくなってしまった人に向けて考えられた、大掛かりな仕掛け満載の遊戯施設。

 初めて利用した人はきっと「ヤバいところに来てしまった」と後悔するでしょう。

 歩くと軋む錆びついた鉄橋。手なれていない、ご高齢のスタッフ。謎の誓約書。

 そして、ラジオの緊急速報と突然起こる大地震。

 すべて、利用者に不安を植えつけるために仕掛けられたものなのです。

 鉄橋の古さも、崩壊しそうなほどの激しい揺れも、すべて演出。

 スタッフは演技と特殊メイクの技術で完璧にお年寄りを演じた、プロのスタントマンです。

 絶体絶命の状況のなか、決死のジャンプを体験できる、世界初のアトラクション。

 当然、ネタバレは厳禁。わかってしまったら、このスリルは味わえません。

 そのための誓約書で、ケンタさんはそれをしっかり守って教えてくれなかったのです。

<第8回に続く>

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