面白い話が大好きな国王。彼を怒らせてしまった吟遊詩人は、誰?/3分間ミステリー ゆらぎの物語2⑩
公開日:2023/9/1
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー ゆらぎの物語』(和智正喜/ポプラ社)第10回【全16回】
1話2~3ページの短い物語を読み、その中の”かくされた意味”を考える『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ。物語を読み終わったら想像力を巡らせ、解説ページで答え合わせをするのがこのシリーズの楽しみ方! 今回の連載ではシリーズのなかでも人気の4冊から、それぞれ4つの物語をご紹介します。やさしいものから大がかりなトリックが仕組まれたものまで、あなたは物語の真の意味にたどり着けるか?
お なしずきのまおう
昔、あるところに、とても「はなし」が好きな魔王がいました。
その魔王のために、ふたりの吟遊詩人が城に呼ばれました。
吟遊詩人というのは、あちこちを旅して、めずらしい話やおもしろい話、戦いの話を、歌に乗せて語るひとのことです。
「よく来たな、ふたりとも。わたし、おもしろい物語が大好きだ。おもしろい物語、胸がおどるような物語を聞かせてくれ。さすれば、国が買えるほどの宝をやろう。
だが、心してのぞめよ。わたしが気にくわないと、たちまち火あぶりにしてしまうぞ」
魔王の言葉に吟遊詩人のふたりは震えあがりました。宝がもらえるのはうれしいですが、火あぶりにされては大変です。
けれど、逃げようにも強そうな兵隊が見張っていて、とても無理です。
ふたりは覚悟を決めました。
魔王は「はなし」が好きと聞いていました。おもしろい物語を聞かせればよいのです。
まず、やせた詩人が語りはじめました。
「これはとても、おもしろいおはなしです。小さいころにはなればなれになってしまった兄弟がおりまして、兄は王国の騎士に、弟は盗賊団に入りました。ふたりはとある国で……」
「待て。そこまででよい。もうひとりも語ってみよ。出だしだけでかまわん」
魔王にそう言われ、「ええ」と、こんどは太った詩人が語りはじめました。
「悲しい物語をお聞かせしましょう。幼いころ、お母さんと生き別れた子どもがいました。その子がある日お母さんをさがすため、旅に出たのです……」
「そこまででよい」
魔王はそう言うと、すぐに詩人のひとりを指さしました。
「おまえ、続つづけて語ることを許す」
そして、もうひとりを指さしました。
「おまえ、ダメだ。火あぶりにする!」
火あぶりにすると言われた詩人は「ひいいい」と悲鳴をあげました。
さて、やせた詩人と太った詩人、火あぶりにされることになったのは、どちらの詩人だったのでしょう?