「牧場」という名前の街なのに、牧場が一つもない理由とは?/3分間ミステリー ゆらぎの物語4⑫
公開日:2023/9/3
『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー ゆらぎの物語』(和智正喜/ポプラ社)第12回【全16回】
1話2~3ページの短い物語を読み、その中の”かくされた意味”を考える『かくされた意味に気がつけるか? 3分間ミステリー』シリーズ。物語を読み終わったら想像力を巡らせ、解説ページで答え合わせをするのがこのシリーズの楽しみ方! 今回の連載ではシリーズのなかでも人気の4冊から、それぞれ4つの物語をご紹介します。やさしいものから大がかりなトリックが仕組まれたものまで、あなたは物語の真の意味にたどり着けるか?
牧場
タケル君が住んでいる街の名前は「牧場」といいます。
「牧場駅」に「牧場小学校」、「牧場中学校」、それから「牧場神社」、商店街の「牧場ストリート」なんて場所もあります。
そんな「牧場」の住人のタケル君ですが、ずっと前から不思議に思っていることがありました。
「牧場」っていう名前の街なのに、どうして肝心の牧場がないんだろう?
タケル君は少し前、遠足でとなりの県の牧場に行ったことがあります。牛がミルクを出すところを見学した後、別のたくさんの牛がトラックで運ばれていくのを見ました。「出荷されるんだよ」と牧場のおじさんが説明してくれましたが、どこへ運ばれていくのかは、タケル君にはわかりませんでした。
それにしても……どうしてこの街は「牧場」って名前なんだろう?
あれかな? 昔はあったけど、ビルとかができてなくなっちゃったのかな?
そんなふうにひとりで納得していましたが、ある日、勇気を出しておじいちゃんにたずねてみました。
「ねぇ、おじいちゃん。どうしてこの街は『牧場』っていうの?」
すると、おじいちゃんは、きょとんとした顔になりました。
「なに言ってるんだい、タケル。それはここが『牧場』だからに決まってるじゃないか」
「え?」
こんどはタケル君がきょとんとなりました。
「そういえばタケルはこの前、十歳になったんだったな」
「うん、そうだよ、おじいちゃん」
すると、おじいちゃんはタケル君をしげしげとながめ、肩をぽんぽんっとたたきました。
「ほー、立派に育ったなぁ。じゃあ、あれはやっぱり、タケルを迎えに来たんだな」
「?」
──道の向こうから大きなトラックが来ました。
それは、この前、タケル君が牧場で見たトラックによく似ていました。