鬱と戦うための手段が婚活!? 婚活パーティーでフラッシュバックを起こしてしまいながらも奮闘する女子を描いた『ウツ婚‼』
公開日:2023/9/8
まず前提として述べておきたいのは、この記事で紹介する書籍『ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活』(石田月美・原作、磋藤にゅすけ・漫画/講談社)は、精神疾患に苦しんでいる人に婚活をしろと言っているわけでも、婚活をすれば精神疾患が治るという内容でもないということだ。
精神の病は、症状が消失しても治癒したとは限らない。再発の可能性もあるため、「寛解」(かんかい)と呼ばれて、予防のために薬を飲んだり、しばらく様子を見たりすることが必要である。
私自身、10年ほど前に精神疾患を患ったが、治ったとは思っていない。ふとした瞬間に理由もないのに心が苦しくなることがあるし、情緒不安定になる回数は精神疾患を患ったことがない人より多いだろう。
子どものころから患っている「なかなか眠ることができない」状態は、睡眠障害と名前がつけられて、今や病院で出せるいちばん強い睡眠誘導剤がないとなかなか眠れない。まれに自然に眠れることもあるが年に数回である。きっと睡眠障害とは一生付き合っていかないといけないだろうなと覚悟している。
本作の原作者である石田月美は2020年にこのエッセイを発表して、今年7月、漫画家の磋藤にゅすけによって『ウツ婚!!』がコミカライズされた。
結婚の攻略本でも病気の攻略本でもないという前提は序盤で述べられている。婚活をしていたころから10年ほど経った今も原作者の石田月美は精神疾患を患っていて、それが簡単に治癒するものではないことを自覚しながら、本書は展開する。
当時、この本の主人公である著者(以下、本作の呼ばれ方に沿って「月美」と呼ぶ)は27歳だった。
ウツ病と診断されたのは大学時代だった
人間関係とダイエットをこじらせ
気づけば摂食障害・大学中退と転がり落ちていった
そんな月美が婚活を始めることによって、様々な場所に行き、いろいろな男性と出会うのが大まかなあらすじである。しかし心を病んでいる彼女にとって、婚活はスムーズにうまくいくものではなかった。
たとえば婚活パーティーでフラッシュバックを起こしてしまう、好意を持ってくれた男性とのデートで焦って話題を選び間違える、過活動(“行動が速く、仕事や課題と関連せずに、様々な活動を気の向くまま、計画性がないままに手がけたりする症状”本書より)を発症しながら行動するなど、彼女はたくさんの困難に直面する。
それでも月美は婚活をする。生き続けるためには結婚をしなければと考えているからだ。
「そんな目的で婚活をするなんて」と思う人もいるかもしれない。しかし婚活の目的は様々だ。「こんな目的はダメ」と他人を決めつけることはできないと私は考えている。
そしてまた、私も精神疾患を患ったことがある立場として、本書をHOW TO本として読むのは避けてほしいと願っている。主人公の月美の行動は、彼女が死にたいと思わないようになるため、つまり生き続けるための一例なのだ。
原作と同じように、月美はギャグタッチで描写されることが多い。これは心が苦しい人が本書を読んでよりつらい思いをしないための、原作者や漫画家のはからいなのかもしれない。
精神疾患に限らず、今の社会に閉塞感を抱いたり、少しでも明るく生きたいと願ったりしている人たちにとって、月美が婚活に励む姿は、一種の気づきを与えてくれる。
婚活に限らず、どのような方法でもいいのだ。自分のできる範囲で、小さなチャレンジを、ひとつしてみる。それだけで自分の人生という道筋に、わずかに光がさせば、私たちは生きる希望を持てるのかもしれない。たとえ、抱えている苦しみを消すことができなくても。
私たちは、生きているだけで価値のある存在だと、たしかめることのできる一冊である。
文=若林理央