歴史小説は“人生のカンニングペーパー”? 過去の成功者に学び、失敗者を見てリスクを回避して人生を豊かにする
公開日:2023/8/30
「歴史を学んで得することがありますか?」
「歴史好き」が幾度となく質問される、世間からの「問い」だと思う。
『教養としての歴史小説』(今村翔吾/ダイヤモンド社)の著者、今村翔吾氏もこういった質問を多く受けたことがあるそうだ。
これに今村氏は、「もったいない」と感じるそう。歴史小説は人生を豊かにする教養の宝庫であり、その知識は“人生のカンニングペーパー”だと考えているからだ。
本書は、根っからの歴史小説マニアであり、『塞王の楯』で直木賞を受賞した新進気鋭の作家・今村翔吾氏の「歴史小説は読めば読むほど人生を豊かにしてくれる最高の教養だよ!!!」という想いが、生い立ちや実体験、創作の過程などを通し、情熱的に語られている一冊である。
「歴史の知識は“人生のカンニングペーパー”」とは、どういうことだろうか?
今村氏いわく、「過去の歴史を見れば、自分は少しも特別な存在ではなく、似たような局面に直面した人は山ほどいます。(中略)過去の人たちが成功したサンプルデータと、失敗したサンプルデータが無数に残されているわけです」と語る。
自分が困難に直面した時、歴史の知識があれば、克服する方法を思いついたり、偉人の言動を真似して強いメンタルで乗り越えたり、「人生のリスクをあらかじめ回避」することだってできる。役に立つ無数のデータが、歴史には詰まっているのだ。
ただ、歴史の知識は現代と価値観も文化も違う部分が多く、そのまま現代人である私たちの状況に置き換えることは難しい。
そこで、歴史小説の出番である。
歴史小説は、作家の解釈や想像力が加わることで、その過去のデータと現代人を結びつける役割をしてくれるのだ。そのため、より歴史から知恵を学び取りやすくなっているのである。
抽象的な話だけではなく、本書には「歴史小説だからこそ、こんな教養も身につくよ」というエピソードが、著者の経験をもとに具体的に紹介されている。
歴史を知っていれば、全国の地理に詳しくなり、初対面の人と出身地の話題をきっかけに親しくなることもできるし、旅行をより一層楽しめるようにもなる。「関ヶ原の戦いってここで起こったのか!」「この道を坂本龍馬も歩いたのかな」など、教養があるからこそ、旅の「楽しさ」「深み」を感じられる機会も増えるのだ。
とは言え、中には「いつ役に立つか分からない知識を、時間かけて培うなんてタイパ悪くないか? もっと効率的に教養つけたいんだけど」と感じる人もいるかもしれない。
確かに「今知りたいこと」の知識は、その都度ネットで調べればすぐ手に入る世の中だ。しかし教養は、一朝一夕に身につくものではない。知識を積み重ね、長い時間をかけてコツコツと得てきたものが、一時的に記憶された知識とは違う、「人生の豊さ」につながっていくのではないだろうか。
著者は断言する。「歴史小説ほど時間投資の良いコンテンツは、そうそうない」と。歴史小説は知識の広がりがあり、登場人物に親近感を持てたり、共感したり、泣いたり、学びを得たりすることができる。苦痛な勉強ではない。「楽しんでもらった上で知らぬうちに教養が身についている。新たな教養が生まれる」ものなのだ。
第7章には歴史小説ガイドもあるので、「何から読んでいいか分からない」という方は、参考にしてみるのはいかがだろうか。
私も興味を惹かれるタイトルがいくつかあり、早速Amazonで注文してみた。本が届くまでの「ワクワク」も、人生を豊かにする入り口なのかもしれない。
文=雨野裾