ペンライトを振れば、その対象者が魅力的に見える!? 能動的な「推し活」が回りまわって自分を癒し元気になるワケ
公開日:2023/9/6
あなたには「推し」がいるだろうか? いない人は「推し」が欲しかったり、興味があったりするだろうか? そもそも、「推し」とは何なのだろうか。
若者に接点がない人でも、「推し」という言葉を聞いたことがあるだろう。近年、急速に認知を広げてきた「推し」というワード。「ファン」ではなく、あえて「推し」。両者はどう違うのだろうか。そして、「推し」はなぜそれほど強いエネルギーをもつのだろうか。
『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か (集英社新書)』(久保(川合)南海子/集英社)によると、「推し」は「とても好きで熱心に応援している対象(人や物事など)」のこと。もともとは女性アイドルグループの中でもっとも熱心に応援しているメンバーを指すファン用語だったそうだが、今では対象がアーティストやタレント、アニメやゲーム、ドラマから小説、スポーツや物事など、この世界のあらゆるものが「推し」の対象になり得る、と本書には書かれている。
従来の「ファン」との違いは、「好きの程度」と「ファンである自分が“何をするか”」にある、という。本書いわく、「ファン」は受動的なものであり、「推し」は能動的である。ほかの人にすすめる、グッズを集めるなどは「推し」にまつわるファン行動「推し活」の第一歩。ほかにも、SNSへコメントする、ファンレターを書く、ライブで声援を送りながらペンライトを振る、さらには「推し」の新たな物語を生成する、「推し」に関係ある別の分野にまで興味をもつ、「推し」を模したコスプレをしたり、はては「推し」不在の誕生日会を開いたりもする。
さて、本書によると、「推しに救われた」という経験は、「推し」が自分に直接なにかをしてくれたからではない。「推し」によって自分自身がなにかに気づいたり、自分でできるようになったり、自分をとりまく世界のとらえ方が変わったりしたからだという。つまり、自分が能動的に行動したことによって、救いや癒やし、元気を得られたのだ。「推し」は、その背中を押してくれたにすぎない。
さて、この「推す」という行為は、認知科学や心理学では「プロジェクション・サイエンス」と呼ばれる最新の概念で説明ができるそうだ。つまり、身体や環境や感情は、人間の認知活動とかたく結びついており、心から行動を考えるだけでなく、身体の行為からも認知活動に影響を及ぼすのだという。
どういうことだろうか。
本書は、ペンライトの振り方という「行為」と、振った先にある対象がどれくらい魅力的に見えるかという「認知活動」の関係を探る実験を紹介している。これによれば、応援しているつもりでなかったとしても、ペンライトを対象へ向けて振ったとき、そのキャラクターが活躍していれば、そのキャラクターが魅力的に見えてきた、というのだ。つまり、行動が心に影響を与えたということだ。本書は、「そもそも自分が好きな対象の活躍を、意識的に能動的に全身全霊で応援するという行為が、どれだけ対象の魅力度を爆上げするか、いうまでもないでしょう」と述べている。そして、自分が好きな対象にこのように働きかけることは、自分の「推し」に対する想いを際限なく増幅させていく底無しの循環システムであり、「沼」と表現されるのも確かなのだ、と説明している。
「推し」をもつ人はパワフルであり、人生を前向きに生きていることが多い。そして、周囲の人からは、その元気さやポジティブさを羨ましがられることもある。本書によると、このエネルギーは自分自身の内から得られたものであり、社会が停滞していると感じられるいまの時代だからこそ「推し」が求められている、と考察している。
文=ルートつつみ(@root223)