きつめギャルとシルバニアのほんわか日常生活…幼女すぎる姿に、クラスメイトもときめきが止まらない!『#ギャルバニア』

マンガ

公開日:2023/10/20

 これまで様々な「好きを貫く」女の子たちを中心に、作品を描き続けている岡野く仔氏。同氏自身も着物をはじめとした“好き”なものへの圧倒的な熱量を貫く中、最新作となるのが『ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア』(講談社)である。

“ギャルバニア”の愛称で知られる本作だが、元々は昨今大きな潮流のひとつともなっているネット発のマンガ作品。タイトルの通り、ギャルとクラスメイトの女子高生が、従来は女児向け玩具であったシルバニアファミリーを通して交流を深めていくストーリーだ。

advertisement

 近年のマンガにおいて多くの注目を集める作品の要素、そのひとつこそ「好きを貫く」というもの。その多くは男なのに、女なのに、大人なのに、親なのに、といった世間的属性のラベル、あるいはかわいいのに、大人しそうなのに、怖そうなのに、といった見た目のラベルを打ち破って、それでも自分の好きなものを好きだと公言する「確固たる自分」を持った登場人物たちが描かれている。

 個人の趣味嗜好の多様性がずいぶん当たり前のものになった現代では、昔に比べ様々な“好き”が偏見の目で見られることは減ったかもしれない。だが、それでもまだ自分の“好き”に自信を持てない人は存在するだろう。

 あるいは今でこそ公言しているものの、過去に自分の“好き”を表に出せずに過ごしてきた人もきっと少なくはない。だからこそ大勢の人が自分の“好き”に自信を持って輝くキャラクターたちに共感や応援の感情を持て、彼らに惹きつけられるのではないだろうか。本作も、その中心に位置づけられる作品である。

 物語はある日、女子高生の菜々子が隣の席のギャル・美守座(みもざ)の不審な行動に気づくところから始まる。

 クラスメイトでありながらも、自分とは属性が違う美守座とはこれまであまり絡んだことのない菜々子。彼女は授業中に手元で、シルバニアファミリーのお人形で遊んでいる。その様子をつい凝視していると、隣からの視線に気づいた美守座は慌てたような、恥ずかしそうな、幼い女児を思わせる表情に。二重の意味で菜々子は、彼女の予想外な一面を垣間見ることになるのである。

ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア

 一見キツそうなギャルである美守座が、シルバニアファミリーを毎日持ち歩くほど溺愛している。それを知ってもバカにしたり過剰に扱ったりすることはなく、自分の“好き”を自然に受け入れた菜々子に対し、少しずつ心を開いていく美守座。

ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア

 最初はノートの落書きの上でシルバニアたちを遊ばせていただけの彼女の遊び方も、少しずつ遊具やティーセットなどが持ち込まれどんどんユニークに。菜々子もそれをますます隣から微笑ましく見守り、時には美守座のちょっとした遊びに付き合うようになっていく。

 二人の距離が決定的に縮まったきっかけは、共にテスト勉強をする中での菜々子の一言。裁縫が好きで手芸部に所属する彼女はテストを頑張った美守座に、ご褒美として彼女のシルバニアたちの服を自作するという約束をしたのだ。

ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア

 一緒に洋服のデザインを相談し、菜々子のこだわりが細部まで詰まった衣装に美守座は大感激。以降菜々子が作る服はすっかり美守座のお気に入りとなり、これをきっかけに二人はさらに絆を深めていくのであった。

ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア

ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア

 仲の良い親友と呼べる関係になった菜々子と美守座。しかし二人のシルバニアへの愛は徐々に周囲を巻き込みながら、様々な人々の関係を少しずつ良い方向へと変えていく。

 本作の大きな魅力はかわいく懐かしいシルバニアファミリーの存在のみならず、ずばりこの「何かを好きという気持ちで周りにもたくさんの幸せを振り撒いていく」描写にある。

 人が何かに夢中になっている姿や、好きなものに対して全力の愛や情熱を注いでいる姿はとても魅力的に映る。シルバニアに夢中になる美守座を微笑ましく思うのは、隣にいる菜々子だけでなく次元を超えた私たち読者も同じなのだろう。

 そしてさらに言えばこれは本作の美守座や菜々子に限らず、同じ現実に生きている人々に対しても同じことが言えるのではないだろうか。趣味に全力投球する人、オタ活・推し活のために日々いろんなことを頑張る人…。貫きたい自分の“好き”を持つ人は同時に、誰かが“好き”を貫く姿にも寛容だろう。それはきっと夢中になっている時の楽しさ、大好きなものに触れている時の嬉しさや喜びを、自分事としてよく知っているからなのだ。

 だからこそ、もし自分の“好き”を表に出すことにまだまだ躊躇をしている人がもしいるのなら、ぜひ自信を持ってそれを主張してほしい。そして全力で“好き”を楽しむ純粋な姿を、色々な場所で色々な人に見せてほしいとも思う。

 今はそれを公にする場所も、リアルな場のみならずSNSや動画サイト、匿名コミュニティといった多くの選択肢もある。あなたが“好き”を楽しむ姿を受け入れてくれる場所は、すぐ近くに存在しているはずだ。

 愛するものは違えども、あなたが対象に向ける熱量の大きさは、きっと思っているより大勢の共感を呼ぶことだろう。

 あなたが何かを純粋に楽しむ姿が、あなたが何かを全力で愛する姿が、もしかしたら顔も名前も知らない誰かを、いつか幸せにする日が来るかもしれないのだから。

執筆:ネゴト / 曽我美なつめ