無自覚な好意が恋に変わる尊い瞬間を目撃せよ! TVアニメ放映中のゼロ距離から始まるピュアラブコメ『好きな子がめがねを忘れた』

マンガ

公開日:2023/8/29

好きな子がめがねを忘れた
好きな子がめがねを忘れた』(藤近小梅/スクウェア・エニックス)

 いきなり“ゼロ距離”から始まる恋などあるのだろうか。大抵は好きになって、心の距離と物理的な距離も徐々に近づき、それからいわゆる“彼氏彼女距離”になるはずだ。

 2023年7月夏アニメでも放送中のマンガ『好きな子がめがねを忘れた』(藤近小梅/スクウェア・エニックス)の主人公の少年は、裸眼では人の顔が判別できないくらいなのに、いつもめがねを忘れてしまうクラスメイトの女子の助けになろうと奮闘する。なぜなら彼女に絶賛片思い中だからだ。

 ただ彼女は、会話をしようとするときや彼の顔をよく見ようとするときに想像以上に接近してくる。結果としてふたりはいつも肩と肩が触れるくらい、そして顔と顔がくっついてしまうくらいの“ゼロ距離”に……。

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めがねを忘れ続けて始まる恋

 本作は、中学生男子・小村楓(こむら かえで、以下、小村くん)が、大好きな女子・三重あい(以下、三重さん)の世話をやき続けるほのぼのラブコメである。三重さんが登校して、めがねをせずに眉間にしわが寄って目つきが悪くなっていたら、彼女がめがねを忘れたサインだ。そんな日は、小村くんが三重さんのカバンから教科書を探してあげたり、教科書を忘れたら自分の教科書を貸してあげたり、下駄箱の場所と靴を教えてあげたりする。

 そのうち小村くんは「めがねを忘れたときに助けてもらいたい」と三重さんにお願いされて連絡先を交換する。もちろんウッキウキだ。三重さんはそもそも“天然”なうえ、このような無自覚な好意で小村くんの心をかき乱し、私たち読者の心も揺さぶってくる。

 ただ三重さんは繰り返すが無自覚だった。少なくとも物語の序盤は。めがねを忘れることで発生する(小村くんにとっては)イベントを繰り返すなかで、三重さんはただただ「気を付けよう」「小村くんと皆に迷惑かけないようにしなければ」と思っていた。

 ターニングポイントは第4巻。校外実習の日、また三重さんはめがねを忘れ(正確には間違えてダテめがねを持ってくる)、いつものように小村くんに助けてもらう。「ちゃんとしようと思っていたのに」と自己嫌悪で泣いてしまう彼女に、小村くんは思い切って本音を伝える。

三重さんが明日もめがね忘れればいいのにって毎日思ってるよ

……三重さんの助けになれるのが嬉しいから

「迷惑かけられるのが嬉しい」という気持ちがよくわからない三重さん。彼女がそんな小村くんの言葉について深く考えているとき、友達のあすかが恋をしている表情を見せた。それは「特別に好き」な顔だった。

 その日、三重さんはいつものように小村くんの顔を“ゼロ距離”でのぞきこむ。そこには嬉しそうな、あすかと同じ顔があった。三重さんはそれを見て「嬉しい」と感じる。ということはつまり……。

 三重さんはめがねを忘れて小村くんは彼女を助ける構図は続く。でも変わるところもある。

気持ちを伝えたくなったふたりはどうする? どうなる?

「めがねを忘れたとき、小村くんのことを近くで見ていい? 一日一回小村くんの顔を見たい」三重さんからこうお願いされる5巻以降は、怒涛の展開だ。無自覚だった天然少女が覚醒するとこうなるのか……と読んでいて激しくドキドキさせられる。

 読んでいる側からすれば「早く付き合えばいい」とも思ってしまうが、ふたりはまだ中学生、好きの先をどうしたいかなんてまだよく考えられない。それでも彼らはお互いに「伝えなければいけない」と考える。

 三重さんはあるとき同級生・東と恋バナをする。彼は隣に住む、仲良しの大学生のお姉さんが好きなのだという。「がんばってちゃんと言うよ」「言わないと将来一緒にいれないかもでしょ」この東の言葉を聞いた三重さんは考える。気持ちとタイミングを。

 物理的には“ゼロ距離”になっている小村くんと三重さんが、お互い「伝えるため」にどう行動するのか。アニメを視聴済みの人はもちろん、本稿で初めて知ったという人も、ぜひこのピュアすぎる恋の行方を見守ってみてほしい。

文=古林恭