【累計17万部突破】切ないほど、まぶしくて、美しい――「30秒で泣ける」新しい時代の恋愛小説集

暮らし

公開日:2023/9/8

 今、TikTokで、ある超短編小説集がバズりまくっている。それは、『すべての恋が終わるとしても―140字の恋の話―』と、その第2弾『すべての恋が終わるとしても―140字のさよならの話―』(ともにスターツ出版)。冬野夜空さんがTwitterに投稿していた140字小説を書籍化したものだ。累計発行部数は17万部を突破。「30秒で泣ける」として、10代~20代を中心に大きな話題を呼び、重版が追いつかないほど、売れに売れているという。

 たった140字。とてつもなく短い恋の物語。文字数制限のない長編小説とは違って、どうしたって語られることは限られているはずだ。それなのに、どうしてこんなにも惹きつけられるのだろう。140字ピッタリの物語は、私たちの感情を揺さぶってくる。

「深夜のコンビニに一緒に行ったり、一日中ふたりでダラけたり……」
片恋相手の君は次々と理想の恋人像を挙げていく。
でも、それは全部俺と経験したことばかりで、欠けている要素なんて——。
「あとは……強引な一面がある人もいいなぁ、なんて」
そう照れ笑いする君の顎を持ち上げ、了承のないキスをした。

——「理想の恋人」(『すべての恋が終わるとしても―140字の恋の話―』より)

すべての恋が終わるとしても―140字の恋の話―
すべての恋が終わるとしても―140字の恋の話―』(冬野夜空/スターツ出版)

向かいの駅のホームに懐かしい姿を見た。
昔付き合っていた彼の姿。
今は新たな恋人と一緒にいるらしい。
未だに彼のことを思い出してしまうけど、きっと彼はそんなことないんだろうな。
そう思いながら眺めていると、目に止まった。
『ピアス似合うと思うよ!』
当時私が言って空けてくれたピアスがそこに。

——「残り香」(『すべての恋が終わるとしても―140字のさよならの話―』より)

 短い物語でも、それぞれの物語はクライマックスに驚きが待っている。余韻がある。私たちの想像力がこれでもかというほど掻き立てられ、つい物語の続きを想像してしまう。

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 それに、何よりも、いろいろな恋愛が描かれているのがいい。恋の始まりを感じさせられるものがあれば、別れを思わされるものも。甘酸っぱい物語があれば、ほろ苦い物語もあり、そのひとつひとつの味わいが違う。だからこそ、今の恋に効く言葉がある。ずっと大切にしていたい過去の恋を思い出す。たとえば、好きな人がいる人は、この本の中のフレーズを真似て、相手をキュンとさせてみたくなるかもしれない。失恋を引きずっている人は、街の風景全てに大切な人を思い出す女性や、元カノのSNSを開いてしまう男性の物語に、自分自身を重ね合わせてしまうかもしれない。きっとあなたも、この本をめくれば、自分のための物語に巡り会うことができるに違いない。

 短い物語だから、読み心地はスナック感覚。サクサク楽しむことができるから、普段本を読まない人、本を読むのが苦手な人もハマり込んでしまうだろう。いつでもどこでもトキメキや切なさを摂取できる。それが、このシリーズが、たくさんの若者たちの間でバズった理由に違いない。恋に落ちたことのある人も、まだ恋をしたことがなくともそれに憧れを抱いている人も、30秒で泣ける。共感&感動。エモさに悶えずにはいられなくなる。切ないほど、まぶしくて、美しい。そんな、新しい時代の恋愛小説集を、是非ともあなたも手にとってほしい。

文=アサトーミナミ