エロイムエッサイム? 禁じられた遊び? 橋本環奈×重岡大毅×「リング」中田秀夫監督で映画化のオカルトホラーに迫る

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/8

禁じられた遊び
禁じられた遊び』(清水カルマ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「このホラー小説、おもしろいよ」

 友人や知人が、ホラー作品が好きだと聞くと、知っている小説を紹介したくて、つい言ってしまう。しかし彼らはホラー小説に慣れているので、「それってどんなホラー小説?」と聞かれることも多い。

 ここで使われる「どんな」は、小説の内容のことだけではない。ホラーというジャンルは大きな枠組みにすぎず、その枠組みの中には、ミステリーの要素をふんだんに取り入れたホラー、異世界を舞台にしたSF兼ホラー、流血などグロテスクな描写が特徴的なスプラッターと呼ばれるホラー、説明のつかない異変が起こったわけではなく、人間の持つ恐ろしさを突き詰めたサイコホラー……数え始めるときりがないほどたくさんある。

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 この記事で紹介するのは、怪奇現象を扱ったオカルト系のホラー小説『禁じられた遊び』(清水カルマ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)である。

 主人公は倉沢比呂子(くらさわ・ひろこ)、20代の女性であり、本作のプロローグは彼女が自分の部屋で怪奇現象に見舞われている場面から始まる。彼女は何もしていないのに、しっかりと閉めてあるドアや窓が開き、手に触れたグラスが割れてカーテンが焦げる。助けを呼ぼうとしても受話器は熱く、やがてグラスのように砕けてしまう……。比呂子は恐怖におののきながらも、なぜ自分に災難がふりかかっているのか知っている様子だ。

 プロローグが終わった次の場面では、雰囲気ががらっと変わり、郊外の一戸建ての家に引っ越したばかりの三人家族とペットの柴犬が登場する。家族構成は8年前に結婚した伊原直人(いはら・なおと)と妻の美幸(みゆき)、5歳になる息子の春翔(はると)である。幸せを絵に描いたような一家で、両親は息子を可愛がり、素直な息子は新しい家ではしゃいでいる。

 実はこの一家が、比呂子の身に起きた出来事の鍵を握る存在なのだ。

 比呂子は怪奇現象に悩まされる前、直人と同じ会社に勤めていた。ふたりは惹かれ合っていた。ただ既婚者である直人と比呂子は、美雪が妊娠したこともあって不倫関係にはならなかった。しかし美雪は、ふたりの仲を誤解して比呂子を敵視するようになる。

 その後、比呂子は怪奇現象に耐えられなくなって退職、オカルトに理解のある友人の麻耶(まや)を除いて比呂子の言うことを信じる人はおらず、1年間精神病棟に閉じ込められた後、フリーのビデオカメラマンになる。

 比呂子と直人が会わなくなったことで、怪奇現象はなくなったはずだった。

 直人の一家が一戸建ての家に住み始めてすぐ、妻の美雪が事故死するまでは。

 本作を読む醍醐味は、怪奇現象の衝撃的な描写と終盤で明かされる『禁じられた遊び』というタイトルの意味を探ることにある。また、本作は書店員も審査するエンタメ小説新人賞、第4回本のサナギ賞受賞作であり、作者のデビュー作でもある。単行本の帯には小説を読み慣れた書店員たちの、「ものすごくレベルが高い作品」「新人さんですよね?」といった驚きのコメントが並ぶ。

 ホラー小説が好きな私が読んでみると、怪奇現象が起きる場面すべてにおいて、自分がその場にいるような感覚に陥った。作者が実際に見てこなければ書けないような内容ばかりだったからだ。場面がどんどん切り替わることも功を奏して、映像と映像がつながっていくような錯覚に陥る。

 そしてこれは私の錯覚では終わらないようだ。

 2023年9月8日、本作は、橋本環奈、重岡大毅(ジャニーズWEST)主演で実写映画として公開される。注目したいポイントはキャストや実写という点だけではない。監督を務めるのは、『リング』(1998年)によって日本中にホラーブームを巻き起こし、近年は『スマホを落としただけなのに』(2018年)などをヒットさせた、ホラー映画界の巨匠である中田秀夫なのだ。

 映画館から私たちは無事に帰れるだろうか。そんな気持ちにすらなってしまう。映画を見る前でも後でもいい。原作小説を読めば、映画との違いを比較する楽しみが得られるだろう。まだ暑さの残る季節、ぜひ味わってほしい小説だ。

文=若林理央