ネス湖の「ネッシー」大捜索で話題の未確認生物研究。意外と多い、幻想動物が実は存在しているあの生物だった、という話

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公開日:2023/9/11

図説 異形の生態
図説 異形の生態』(ジャン=バティスト・ド・パナフィユー:著、星加久実:訳/原書房)

 イギリスのネス湖で、過去50年において最大規模の「ネッシー」の捜索が8月26日に開始されたことが話題だ。鳴き声を拾う水中マイクや、熱を感知する赤外線カメラを搭載したドローンを駆使するなど、人々の未確認生物への探求心は今なお枯れていない。

「未確認動物学」という分野を知っているだろうか。伝承や伝説に登場するような想像上の動物が、実際にこの世に存在するのではないかと考え、正体を突き止めようと奮闘する学問である。

 かつて幻想動物だろうと思われていたものが、未確認動物学の探求のおかげで実在することが判明した生物は数多くある。たとえば、「怪物のような特異な姿をしたネズミ、キツネ、サル、アナグマが混じった動物」は何だと思うか?

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 この怪物と思われた動物は、後に「オポッサム」だと判明し、実在していたことがわかる。

図説 異形の生態』(ジャン=バティスト・ド・パナフィユー:著、星加久実:訳/原書房)では、実在しているがまだ見つかっていないだけかもしれない、伝承や伝説に登場する(今はまだ)幻想動物と呼ばれる生物たちを、伝承や特徴から導き出された架空の解剖図とともに紹介している。いずれその正体が解明され、幻想ではなくなるかも? しれない。いくつか紹介しよう。

「妊婦がうっかりその体をまたぐと流産してしまう」2つの顔を持つ爬虫類

「両方向に歩くもの」という意味のあだ名をもつ爬虫類がいる。アンフィスバエナだ。どちらが前でどちらが後ろなのかわからないのは、頭と尻尾どちらの側にも、顔と思しきものがあるからだ。「片方の頭が寝ている間、もう片方の頭は起きている」「両方の頭から毒を出すことができる」という噂があり、極めつきは、「たとえ死体であっても、妊婦がうっかりアンフィスバエナの体をまたぐと流産してしまう」という恐ろしい特徴がある。学者の間では、ミミズトカゲの一種なのではないか、という説が有力らしい。

図説 異形の生態 P.31

家畜の首に穴をあけ、血をすべて吸い取って死に至らしめる生物

 目撃談だけにとどまらず、その生物のせいで実害が出てしまっているケースもある。「山羊の血を吸うもの」という意味の名をもつ生物「チュパカブラ」だ。アメリカの南部からチリに至るまでラテンアメリカの各地で被害が報告されているという。

 ただ、多くの目撃証言が集まっているが、犬のような頭部のものから、カンガルーのように跳び回るタイプ、木々の間を飛び移るタイプ、赤い目をした黒いコウモリのようなタイプ、そして緑色の鱗にも似た皮膚の爬虫類タイプまで、実に様々なのが特徴だ。

図説 異形の生態 P.47

燃える火のようなおならを出して追っ手を焼く生物、ボノコン

 2本の角が内側に曲がっていてまるでハートを描くような形をしており、背中に黒い尖ったこぶみたいなものがある生物、ボナコンがいる。敵を遠ざけるために、驚きの技を繰り出すと記載がある。大きな肛門から尿酸を含んだ皮膚を損なう液体を出し、蒸気の状態で4メートル飛ばすことができるらしいのだ。敵は焼きつくような痛みを感じるという。

 生物学者は、このアフリカにいると言われているボノコンなる生物を、実際には、バイソンではないかと予測しているらしいが、その真偽は明らかにはされていない。

図説 異形の生態 P.49

「シ」という超シンプルな名前の生物、額にのこぎり状の角あり、クジラを驚かす

図説 異形の生態 P.79

 18世紀に書かれた『アイスランド博物誌』(ヨハン・アンダーソン:著)に、「シ」というあまりにシンプルな名前の生物が出てくる。この「シ」という生物をクジラが見た時の様子について、このように書かれているらしい。

“その巨体にもかかわらず、クジラはシの姿を目にした途端、驚くほど飛び上がり、動揺していた。”

 そして、長年の恨みでもあるみたいにシはクジラに果敢に挑みかかり、のこぎりのような剣をクジラに振り下ろす。「シ」から受けた傷があまりに深いと、クジラが出血多量で命を落とすこともあるとか。

 そしてこの「シ」という生物。実は海の一般的な生物を知る人なら、絶対に知っているあの生物のことだったのだ! クジラにも怯まない凶暴性……。

 答えは「シャチ」だ。のこぎり状の角とは、実は、背びれを見間違えたのだろうとのこと。こういった、伝承や伝説で語られている生物が、実は誰もが知るあの動物だった、というパターンが多いのが興味深い。

 本記事で紹介した生物以外にも、ハリー・ポッターに出てきた「ヒッポグリフ」や、巨大イカの「クラーケン」、「イエティ」、犬人間の「キュノケファロス」、「河童」、ネズミより小さくて魚の尻尾をもつ象「チャンナム」などが、色鮮やかなイラストとともに紹介されている。それぞれの幻想生物について、実はこの実在動物のことを言っているのかもしれない、という視点で見るのも面白いかもしれない。ちなみに「ネッシー」は、クジラのペニスではないか、という説もあるようだ。実在する別の動物の体の部位、という視点で見るのも面白いかもしれない。

文=奥井雄義