初代iPhoneや組み換えDNA技術に匹敵? 生成AIは人類にどれほどのインパクトをもたらす発明なのか/AIは敵か?①
公開日:2023/9/13
『AIは敵か?』(Rootport)第1回
AIに仕事を奪われる! 漠然と抱いていた思いは、「ChatGPT」のデビューによって、より現実的な危機感を募らせた人も多いのではないでしょうか。たとえば、バージョンアップしたGPT-4のアドバイスを受ければ、プログラミング経験のないユーザーでも簡単なアプリを作れるほど高い精度を誇ります。では、⽣成AIが登場し、実際に人々の生活はどうなるのか。本連載『AIは敵か?』は、マンガ原作者でありながら、画像生成AIを使って描いた初のコミック『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)を上梓したRootport(ルートポート)氏が、火や印刷技術といった文字通り人間の生活を変えた文明史をたどりながら、人とAIの展望と向き合い方を探ります。
AIの衝撃を「たとえる」なら、こう
⽣成AIは⼈類社会を変えるほどの発明だと、多くの⼈が⼝を揃えて主張しています。ここで興味深いのは、「AIが⼈類社会にどれほどのインパクトを与えるか」を、みんなそれぞれ⾃分にとって⼀番⾝近な「インパクトがあった過去の発明」に喩えていることです。たとえばMicrosoftドイツ法⼈のCTOアンドレアス・ブラウン⽒は、GPT-4の登場を「初代iPhone」に匹敵するターニングポイントだと述べました。また、東⼤副学⻑の太⽥邦史⽒は、学⽣に向けた声明⽂の中で「組み替えDNA技術」に匹敵する変⾰だろうと指摘しました(太⽥⽒の専⾨分野は分⼦⽣物学です)。さらにビル・ゲイツ⽒は、AIは「GUI」以来の⾰命的なテクノロジーの進歩だと主張しています。
※補⾜:GUI / Graphical User Interfaceとは、マウス等でウィンドウを操作する現在では⼀般的なコンピュータのインターフェイスのことです。これが登場する以前は、Windowsの「コマンドプロンプト」やmacOSの「ターミナル」のように、⽂字でコマンドを打ち込まなければコンピュータを操作できませんでした。こちらはCUI/Character User Interfaceと呼びます。
対話もできる、翻訳もできる、国家試験も楽勝で解く
昨今のAIブームは、2022年7⽉の「Midjourney」のデビューに始まると⾔っていいでしょう。これはtext2image、つまり⽂章から画像を⽣成するAIでした。さらに8⽉には、同じく画像生成AIの「Stable Diffusion」が公開され、オープンソース化されました。同年12⽉には、「ChatGPT」がデビュー。これはLLM(Large Language Model/⼤規模⾔語モデル)の「GPT-3.5」を⼟台としたサービスであり、過去に例がないほど⾃然な対話ができるAIとして世間を驚かせました。
そして2023年3⽉にはChatGPTに「GPT-4」が加わり、その性能の⾼さで私たちを震撼させました。GPT-4は⽬を⾒張るほど的確な機械翻訳ができるだけでなく、⼤学⼊学試験や司法試験、医師試験を次々と突破しました。さらにGPT-4のアドバイスを受ければ、プログラミング経験のないユーザーでも簡単なアプリを作れるようにまでなったのです。
「text2○○」の可能性がどんどん広がる
LLMは「⾔葉を他の⾔葉に変換するタスク」を得意とする装置(マシン)だと、私は理解しています。
たとえば機械翻訳は、典型的な「⾔葉を他の⾔葉に変換するタスク」です。あるいは、「ぼく今⽇ぽんぽんペインでぴえんだから会社休むわ、よろ!」というくだけた⽂章を、「本⽇は体調不良のため⼤変恐縮ですが有給を取得したく存じます」というビジネスメールに書き直すことも得意です。⻑いブログ記事や論⽂も、GPT-4は上⼿に要約してくれます。さらに⼊学試験や資格試験は、教科書という⾔葉の塊を、テストの解答欄という⼩さな⾔葉へと変換するタスクです。最後に、プログラミングは(広い意味では)要件定義書や仕様書に記された⾔葉を、コードという別の⾔葉へと変換するタスクだと⾔えます。
GPT-3.5、およびGPT-4は、「もしやAGI(Artificial general intelligence/汎⽤⼈⼯知能)まであと⼀歩なのでは!?」という衝撃を持って世間に受け⽌められました。のちにそれは過⼤評価だと理解されるようになるのですが、それでも当時は「万能のAI」に⾒えたのです。その理由は、私たちの⽇常⽣活には「⾔葉を他の⾔葉に変換するタスク」が満ちているからではないか……と私は考えています。
たしかに全知全能ではありませんが、これらLLMが多機能であるという点は今でも変わっていません。またtext2imageのAIは、クリエーターやアーティストの間で激しい議論を巻き起こし、いまだに決着の⽬処すらついていません。さらにこの原稿を書いている現在、text2musicのサービスが乱⽴し、text2videoやtext-to-3DCGのAIの開発も猛スピードで進んでいます。
こうして⾒ると、⽣成AIは⼈類社会を変えるほどの発明だと⾔いたくなる気持ちも分かります。
では、どれほど変えるのでしょうか?
過去の発明に⽐べて、どのくらい変えるのでしょうか?
次回は、人類史における発明を振り返りながら、それがどれほど衝撃的だったかを探ってみたいと思います。
<第2回に続く>マンガ原作者、作家、ブロガー。ブログ「デマこい!」を運営。主な著作に『会計が動かす世界の歴史』(KADOKAWA)、『女騎士、経理になる。』(幻冬舎コミックス)、『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)、『ドランク・インベーダー』『ぜんぶシンカちゃんのせい』(ともに講談社)など。2023年、TIME誌「世界で最も影響力のある100人 AI業界編」に選出される。