ヨシタケシンスケ、憧れの作家との対談に「あの人と俺、しゃべってるんだ!」―『もりあがれ!タイダーン ヨシタケシンスケ対談集』を語る
公開日:2023/9/8
数々の著作がある絵本作家のヨシタケシンスケさんの新刊は、ヨシタケさんが会いたかったという人気作家11名との対談が収められた『もりあがれ!タイダーン ヨシタケシンスケ対談集(MOE BOOKS)』(白泉社)だ。対談集としては著者初となる一冊はどのように生まれたのか、ヨシタケさんにお話をうかがった。
取材・文=荒井理恵 撮影=金澤正平
「そんな人が僕に会ってくれるの!?」の喜びで受けた対談企画
――元は月刊誌『MOE』での不定期連載が一冊にまとまったとのことですが、本にまとまってどうでしょう?
ヨシタケシンスケ(以下、ヨシタケ):企画をはじめた当初は一冊になるとは思っていなかったんですが、「せっかくだからまとめましょう」って話になってありがたかったですね。イラストレーター時代から20年くらい経ちますけど、連載のものが本になるのはなかなかやっぱり貴重なことで、消えてしまわずに一冊にまとまるということの幸運をまずは喜びたいと思います。
――本の冒頭には連載の動機が「空いてしまったページを埋めるために急遽出動」みたいにありました。やはりお話は突然きていたんですか?
ヨシタケ:「●月号で●●さんと対談しませんか?」って突然やってくる感じでしたが、本にも書きましたけど、「そんな人が僕に会ってくれるの?!」って感じでついついOKしてしまって。対談だと先方の予定もありますから、突然とはいえそれなりに時間に余裕はあったんだと思いますけど(笑)。
――「対談」という企画自体は、どう思われましたか?
ヨシタケ:僕はデビューが遅くて40歳で絵本作家になったので、「読者としての時間」のほうがずっと長かったんですね。作家歴が長ければもう少し落ち着いて表現者としてお話ができたかもしれませんけど、「昔からファンとして読んでいたあの人に会えるの!?」ってお話をいただいたときのドキドキ感が「ほぼ素人」で。
そうやって緊張しながらも、「こんな機会もうないかもしれない、せっかくだし!」っていう貧乏性の部分とが毎回せめぎあってました。対談ってお互いが同じくらい話すのが基本じゃないですか。でも僕は緊張すればするほどしゃべっちゃったりとか、沈黙が怖くて先方が考えてるところでしゃべっちゃったりとかで、毎回対談の後は下向いて落ち込んでました(笑)。
――でも本になったのは読者の反響がよかったからで。ちゃんと読者には面白さが伝わってたわけですよね。
ヨシタケ:どうなんでしょうね。対談してる時点では、読者の気持ちを考える余裕なんてまったくないですからね。「あの人と俺しゃべってるんだ!」っていう高揚感と、「失礼なことになってないかな」「つまんねぇなと思われてたらどうしよう」とかでいっぱいいっぱいでしたから。
――対談以外の漫画の描き下ろしとかも面白いですね。
ヨシタケ:サブタイトルの「ヨシタケシンスケ対談集」に対して、「なんかメインタイトルを考えてください」って言われて。いっぱい考えたんですけど、「私みたいなものに時間さいてもらってありがとうございます」みたいな卑屈なやつばっかりが思いついてしまって、唯一、ポジティブ方向に持っていきやすそうなタイトルがこれだったんですね。
「たいだん、たいだん、たいだーん?」ってただのダジャレなんですけど、思いついたら我慢できなくなって、全体をロボットアニメ風にしたらどうかと。いろいろ描き下ろしもしたりして楽しかったです。
作品と作者がいろいろリンクしていることに「納得」できた
――対談相手はどう決めたんですか?
ヨシタケ:「誰か対談してみたい人いませんか?」って編集部から聞かれたり、「ヨシタケさんと話が合うと思うんで」とかすすめられたり、結構バラバラでしたね。どの方ともお話ししてみたいという思いはあるんですけど、一方ですごく好きな作品の作者さんの場合、作品が好きだからといって書いた本人が好きになれるかはわからなくて、ちょっと考えすぎちゃうこともありました。
僕も描く側の人間として「作品と本人は別のもの」と知っているので、好きな作品を書く人ほど会いたくない気持ちが本当はあるんです。イメージを壊したくないし、本来は本人に会う必要はないものだし、でもせっかくだからって…。
――実際に会ってみて、いかがでしたか?
ヨシタケ:そうやって散々怖がっておいただけのことはあるというか、すごく「納得」できる感じでした。作品とご本人がやっぱりいろんなところでリンクしていて、「でしょうねー」「だからかー」とか思うことがたくさんあって、「それがこういう形で作品になってるんだ」と。幸い「イメージと全然違ったー」というのは全くなかったですね。もちろんあったとしても、それをどうにかするのが仕事でもありますので、そういうのも覚悟の上で毎回挑んでました。
――初対面って緊張するものですが、ヨシタケ流の初対面の乗り越え方はあるんですか?
ヨシタケ:対談を申し込まれたとき、相手には当然「断る権利」があるわけですよね。「ヨシタケ? 誰だそりゃ。そんなヤツに会うのに俺の貴重な時間を使ってたまるか」ってなったら、そもそも成立してないので。ということは、何かしら「会ってもいい」と思ってくれているところからスタートしているはずで、もうその気持ちに甘えようと。「NOっていわなかったでしょ?」「話がつまらなくても、1時間くらい我慢できる“大人らしさ”は持ってるんですよね?」っていう、相手の優しさにのっかる気持ちでした。
結果的にはみなさん大人で、すごく優しく接してくれましたし、「一作家」としてリスペクトしてくださるのもすごく伝わってきて、本当に泣きそうになってました。「こんな私でごめんなさい、ありがとう」みたいな。
――それはうれしいですね。
ヨシタケ:そういうところも含めて「プロだなー」と思いましたね。「表現する人」である以上、同じ表現を生業にしている人へのリスペクトというのをみなさんちゃんと持っている。新人だろうが、売れてようがいまいが、そこをちゃんと持っているというのがすごくうれしかったし、さすがだし、だからこそ一流なんだなーと思いました。とはいえやっぱり「人間」で、そういう当たり前の結論にすごく時間をかけて辿りつけたのは贅沢だしうれしかったです。
「僕に興味を持ってくれている」ことに、うれしくて泣きそうになった
――質問の内容はあらかじめどのくらい想定していましたか?
ヨシタケ:考えれば考えるほど「聞いても、聞いたところで」ってなってしまって、あんまりないですね。そもそも盛り上がる様がまったくイメージできてなかったのもありますし。やっぱり相手の方が優しくしてくれたおかげというか、盛り上がってないと「僕の制作論を話してあげようか」みたいなこともあったでしょうし。あと横で編集者さんがうまい感じの助け舟を出してくれたり、僕が7割くらいの比率でしゃべってたのをライターさんが半々に上手にまとめてくださったりというのもあってありがたかったです(笑)。
――「表現する者」同士の対話ということで、クリエイティブ論になるのも面白かったです。
ヨシタケ:みなさん自分のスタイルがあるからこそ作家になれてるわけだし、誰もがその人にしか通用しない方法を好んでやっているので、話し合っても何かそこで別のものが立ち上がる可能性は本来なくって、「私はこうです」「あなたはこうです」「違いますねー」で終わっちゃうはずなんです。
相手を論破する必要なんてないですし、お互いに共通する部分だったり、逆にわかりあえない部分というのがあったり、お互いの違いが浮き彫りになれば対談としては成立してますよね。そういう印象が残っているのだとしたら、やっぱり対談してくださる方の芯の強さであり、そこに僕は助けられてると思います。
――どのお相手も「ヨシタケシンスケって人はどんな人なんだろう?」と思いながら答えている感じも面白かったです。
ヨシタケ:それがほんとに泣きそうになるくらいうれしかったですね。「あ、僕に興味を持ってくれてるんだ」っていう。人間としてやっぱり「自分に興味持ってくれている」って感じることって、一番幸せに近い状態じゃないですか。僕がずっと憧れていた「あの人」が、「僕に興味持ってくれてる」「僕に質問してくれてる」っていうのが、なによりも感激するわけですよね。それでしゃべりすぎちゃうんですけど(笑)。
そこがやっぱり真摯さというか、相手の誠意というか、なのでこの本は「本当なら僕のことを聞く必要はないくらいの方が一生懸命僕に興味を持ってくれてる」ってことに感激した記録でもあるんです。
――今回初の「対談本」になるわけですが、絵本とは一風違った本で、ヨシタケさんがさらにパワーアップした感じですね!
ヨシタケ:「対談本」って、なんか箔がついたように見えますよね。「こんな様々な方々としゃべれる人」みたいに見えるというのは、なによりも自分を大きく見せてくれる気がして、なんかうれしいですね(笑)。これに見合った中身があるかはさておき、「そういうふうに見えてしまうかもしれない」っていうのが、本のすごくいいところで。「そこにのっかっていきたいな!」ってすごく思います(笑)。